九日目・夜・さっきのは
「ロッド氏……」
リリアはこの惨状の一部始終を見ていた。始めの内は戦闘の仕方や、間合いの取り方など、参考になるかと思っていたが…。流石にこれは次元が違い過ぎる。とても人間業では無い。そう思った。
正直今までのロッドの戦い方は、相手に深傷を負わせない事に必死で、実戦では使えない甘い戦い方だと思ってきた。しかし、この戦闘を見る限りだとそんな甘さはどこにも無かった。むしろ相手を殺す。そんな様子だった。実際にすぐそこに転がっている人間は既に死んでいるだろう。
「……。」
何も言わず、何もせず、ロッドはただ虚空を見つめている。強いて言うならば、呼吸を整えるように深く息を吸っているだけ。そんなロッドがフラ…とこちらを向いた。いつもの温厚な顔はどこにも無く、光を失った目はこちらをギョロギョロと見つめている。
目があった瞬間にリリアは恐怖を感じた。単純に「私も殺されるのではないか?」という恐怖だ。何もかもがいつもと違い過ぎるので、これからロッドが何もするのかも予想が出来ない。流石に仲間と敵の違いくらい判断は付くだろう。そう思っていても身構えてしまう。そのくらいにロッドが怖い。知ってはいけない闇を見た感覚だった。
「リリア…」
ロッドがヨロヨロとこちらに歩きだしてくる。虚ろな目をこちらに向けながら。次第に速度は増していき、スタスタと確実な一歩を歩んでくる。
「リリア…」
「な、なんだロッド氏」
「……」
「……」
変な空気が場に流れる。お互いに沈黙が続いている。
「怪我はないのか⁉︎」
「…え、あ、あぁ。私は大丈夫だ。むしろロッド氏こそ」
「俺は何ともない。それより怪我人は誰だ⁉︎」
話してみれば普段のロッドだ。それに、先ほどの爆撃があった時の怪我人を心配しているようだ。おそらく壁に付いた血を見て、慌てているのだろう。
「それなら心配ない」
「何言ってんだ、怪我して、血まで出してるんだぞ?普通、大丈夫なわけ…」
「そう、普通ならな」
「ガハハハ!まるで俺が普通じゃないような言い方だな嬢ちゃん」
「お、オヤジ…?まさか」
「そう。オヤジさんが私達をかばってくれたんだ」
頑丈で図体がデカく、さらに腕力がある。それなりのスピードもある。こんなチート野郎がいていいのか?とロッドは思う。今だって、少女四人をかばって手榴弾の爆撃を防いだ。オヤジの背中は確かに血だらけだが、全然平気な顔をしている。顔面には包帯を巻かれているし…。本当に人間なのか?このオヤジと居ると、この疑問が絶えない。
「じゃあ、他の皆は…」
周りを見渡すと、ララも、ルナも、スズも、もちろんリリアも、皆怪我をした様子はなく、平気な面持ちだ。それなら俺が本気を出して敵を蹴散らさなくても良かったのではないかと思えてくる。人殺しと呼ばれ、皆に嫌われるくらいなら。爆撃に怯え、影に隠れていた方が…
「ロッドさん…さっき外で爆発があったみたいですけど、大丈夫ですか?」
「…え?」
「え?じゃないわよ。また敵がロッドめがけて手榴弾投げてきたんでしょ?本当、あいつら手榴弾好きよね。私が爆破魔法で…」
「やめて下さいルナさん。私達の村が一つ消えかねないですから」
この様子、俺がヤツらを殺すところを見ていない…?それとも見た事をごまかしている…?
「お前ら、さっきどこに居た?」
「どこって…ここでオヤジさんに守られてたよ」
「危ないから動いちゃだめだ!って言われて、暫くずっとかばわれてました」
オヤジの方を見ると小さくサムズアップしている。これほどまでにオヤジに感謝したことは無いかもしれない。ありがとうオヤジ。
そんな中一人、黒い思想の者がいた。
「(これはほんの貸しだ坊主。次の機会にしっかり払ってもらうからな…)」




