九日目・夕暮れ・殺しの衝動
容赦はない。慈悲もない。
あるとすれば怒りと衝動だけ。
今のこの男に冷静さはない。先ほどの戦いの時ほどの鮮やかさもなければ、見惚れるくらいの身のこなしすらない。
既に鞘は抜かれ、夕日が刃を照らす。思わず目を細めたくなるほどに輝くそれは、男をあざ笑うかのように美しく輝いている。
「もうお前ら許さねぇ。全員ブチ殺す」
男のなかで何かの音が鳴り響いた。
プチッと何かが切れる音か、あるいはカチッと何かのスイッチが入る音か、それは本人にすら分からない。ただ確実に言えるのは、その音は普段の生活において無縁に等しいと言うことだ。
感情に支配された獣は、本能のままに、私欲を満たすまで行動を続ける。たとえそれが痛みを共なおうとも構わない。この気持ち、この感情が収まりきるまで行動はやめない。
第一に、家に手榴弾を投げ込んだと思しき男を斬りつける。銃を構えられてもおかまいなし。堂々と正面から突撃する。腕を広げやや後方に構え、前方へ跳ねるようにして素早く動く。小刻みに左右へ移動しつつ、敵の弾を避ける。何発かの弾が身体をかすめるが、大した怪我ではない。素早く敵の目前に迫り、下段から小太刀を振り上げる。首筋の、頸動脈を狙って、滑らかに素早く。
敵の安否は確認せず、すぐに次の敵へと視線を移す。複数人で囲まれているが、むしろ好都合というところだ。なにせ一度に複数人の敵を殺せるのだから。
一人は剣をこちらに突き出してくる。もう一人は剣を振り上げて、もう一人は剣を構えながら突進してくる。突き出された腕を抱え、そのまま振り回して突進してくる敵にぶつける。横からの打撃を受けた敵はバランスを崩し、構えが甘くなり、よろめいている。膝蹴りを一撃加え、さらにバランスを崩させたところで肘打ちを頭に食らわせて、剣を振り上げている仲間の前へと踊り出させる。タイミング良く振り下ろされた仲間の剣によって斬首される様を見て、周りの他の敵達も動揺している様子だ。仲間を切ってしまった事で隙が生まれたので、残されたその敵を突き刺し、引き裂く。囲んでいた敵は片付けた。倒れた敵の懐から手榴弾を奪い取ると、ピンを抜き敵に投げつける。追い撃ちをかけるように、落ちていた銃で敵影に弾丸を掃射する。倒し切れなかった敵は、再び手榴弾でなぎ払う。辺りは一面に炎と煙が立ち込め、村の一角と言うには程遠く、ひどく荒れ果てている。
真紅の闇と称される男は、完全に焼け野原と化したこの場でただ一人、呆然と立ち尽くしていた。まさに地獄絵図。冥界に一人残された悪魔。男の中に眠っていた衝動が解き放たれた結果であった。




