九日目・夕方・その話は
殺してはない。確かに斬ったのは事実だが、即、死に至るほどの傷は負わせていない。
その事実を頭に巡らせて、この事を忘れようとする。ケンカ場から、文字通り戦場と化した草原には、真新しい血痕だけが残っている状態だった。死人はゼロ。重症はオヤジと、俺が斬りつけた兵士達。そう。俺は人殺しはしていない。人殺しはしていない。人殺しは…
「ロッド氏?帰ってからずっと浮かない顔をしているが…どうしたのだ?」
「ッ⁉︎ いや、別にどうって事はないよ?うん。なんでもない」
リリアは妙なところで感が良い。自分はそこまで変な顔をしていたつもりは無いのだが。
「ロッド、どうやら役人達を片付けてくれたようで、私は嬉しいです」
「俺はお前ら家族が怖くなったよ…」
「ガハハハッ!そんな事言うなよ坊主。俺だって痛い思いしてるんだぜ?」
「顔面に爆弾食らって生きてるあんたが恐ろしいよ」
顔面にグルグル巻きにされた包帯の隙間から、うるさく騒がしい声が響く。本当になんでこのオヤジは生きているんだか…。
「ロッドさん。あの…」
「ん?何だ?」
ララが以前のような か細くておどおどした声で何かを尋ねてくる。
「あの…ロッドさんが戦いに行っている間に、スズさんから少しお話を聞いたんですが」
「⁉︎」
非常にマズイ流れだ。スズの野郎、ララに何を吹き込んだ?俺の過去…"真紅の闇"の事だとしたら…?皆は俺を拒否するだろうか。それとも侮蔑するか。あるいはこのまま警察まで…。
「ロッドさんって甘い物好きなんですね!」
「……え?何だって?」
「あれ、甘い物嫌いですか?」
「い、いや好きだよ好き好き。アップルパイとかいいよね。ハハハ」
なんだか心配して損した気分だ。どうやら俺が居ない間にガールズトークで盛り上がっていたようだ。女子達を見ていると、さっきまで殺気立っていた俺が馬鹿みたく思えてくる。これが安らぎと言うやつか。
しかしそんな安らぎも"一瞬"にして壊された。
「…⁉︎ 皆、隠れて‼︎」
リリアが突然、皆に避難を促す。俺も始めは何かと思ったが、次の瞬間に状況を把握した。
パリンッ!と軽々しく響き渡る破壊音と共に、この空間に侵入する黒く丸い物体。窓を破って投げ込まれた手榴弾はこの家の家具を破壊し、爆風を巻き起こす。
「クソッ‼︎やつらまだ諦めて無かったのかよ‼︎みんな、大丈夫…⁉︎」
破壊された家具に埋れ、血が壁に飛び散った部屋。
この事態。この状況の責任は俺にある。
ついさっき、一人残らず始末しておけば、こうはならなかったはずだ。それに、今だって安らぎなんて言葉に甘えて、気を緩めなければ敵の気配なんてすぐに察知できたろうに。仮に発見に遅れたとしても、皆を庇うことは十分に可能だった。それなのに……
そしてこの男の眼から光は消える




