二日目・午後・森へ出る
俺はララの家で再びご飯をご馳走になった。これで、昨日の夕飯、今日の朝飯、昼飯と、三度も世話になってしまった。これは何かお返しをせねば!と、彼女が好きだと言う(俺はそれ程好きじゃない)冒険。近場で、王国の郊外にある『リントの森』へアイテムの採取がてら、出かける事にした。
「見て下さい!これ、昨日のキキコの実じゃないですか?」
「お、そうだな。三つくらい採っていくか」
自分の住む街のすぐ近くの森なのにララはとても、はしゃいでいる。それに見ている限り、森の生態にあまり詳しそうではない。
「ロッドさん。…これ何ですか?」
「ん?……それは…多分、キリキリの羽だな」
「キリキリ…?」
「大きな鎌を持ったカマキリ見たいなヤツだ。カマキリは昆虫だけど、キリキリは爬虫類なんだ」
「爬虫類なのに羽があるんですか⁉︎」
「いや、単に商人の間でそう呼ばれているだけで、それはただの皮だな」
「なんだ…ビックリして損した気分」
俺も初めて聞いた時は何の事かと思ったが、要はキリキリと言うヤツが脱皮した時の皮だ。ヤツは脱皮すると途端に大きくなる。それと、脱皮したての時は防衛本能ですこし気が荒くなるらしい……?
「なぁララ。その皮、柔らかいか?」
「え、えっと…はい。とても…」
「………。」
「…ロッドさん?」
「……ヤバイ‼︎‼︎」
皮が柔らかい。つまり脱皮したてと言う事になる。まだ近くに潜んでいる可能性が高い。
『ウ"ぇ"え"ぇ"ーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
「逃げるぞ!ララ!」
「え、あっ、はい///」
考えが的中しすぎて、咄嗟にララの手を掴み、森の木の生い茂る方へ走り出す。声の大きさからして、かなり近くに。かなり大きなヤツがいる。ヤツに切られたら、今持っているものでは応急処置できない。木と木の間をクネクネと、なるべく障害物が多くなるように逃げる。とにかく早く逃げなくては。一人ならまだしも、ララも一緒なのだ。
「あ、あの…ロッドさん!どこへ?」
「分からん⁉︎ とにかく身を隠せる場所!…どこか知らない?」
「ごめんなさいぃ!私、森にはあまり来たことないのでぇー!」
このままでは二人ともアボンだ。必死に考えるが逃げる以外に選択肢が浮かばない。…そうだ‼︎
「ララ‼︎ここに入れ‼︎」
「ここ…⁉︎ここって昨日私が…」
「ここならしばらく安全だ。その間に俺がコイツ何とかするから!」
「わ、分かりました!」
キリキリはまだ数メートル先に見えている。ギラギラとした血眼でこちらを睨んでいる。今までの出来事から推測するに、コイツはあまり足が速くない。女の子を引いて逃げる俺にも追いつけない程度だ。だからと言って逃げ切るのは難しい。あの鎌は猫の爪のように収納式になっていて、二段目の鎌が飛び出ると聞いたことがある。この距離ならその鎌の範囲内だろう。木を陰にしなければ確実に切られているはずだ。
『ウ"ぇ"え"ぇ"ーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
二度目の咆哮に怯みそうになりながら俺の愛刀である小さな剣を鞘から引き抜く。やはり、"父の教え"に背くべきか…。愛刀を逆手に持ち、大股で走り出す。一歩一歩の歩幅が欲しかったのだ。そのまま木を盾にしながらキリキリまで詰め寄る。キリキリが鎌を下ろしたその瞬間。俺は横にステップして…
「さぁあぁぁ‼︎‼︎‼︎」
突然聞こえた女性の声に、攻撃するのも忘れ、せっかくつけた勢いもゼロに戻ってしまった。キリキリは、その声の主によってバッサリ切られ、あっけなく討伐された。
見ると、声の主はあの騎士さんである。まさか追って来ていたのかと思ったが、その誤解はすぐに分かった。装備が軽すぎる。騎士さんの愛剣であろう、細く長い剣と、腰のベルトに小さなポーチしか装備がない。鎧の兜のせいで分からなかったが、長い髪と綺麗な顔立ちの人だ。
「誰かと思えば…。商人、この森は最近危険だ。早く街に戻った方がいい」
「あぁ、そうするよ。もう少ししたらな。向こうにララが待ってる」
こうして、今日の小さな冒険は幕を閉じる事になった。