六日目・昼間・潜入
龍妃の兄、黒龍は、この国を治める若き皇子なのだという。もちろん龍妃は皇子の妹なので姫のような立ち位置であり、権力はかなり高い。街中にひょいと出没していい人ではない訳だ。今、この国は昔の一件で非常に危険な状態だと言う。龍妃の語る事をまとめると…
『この国に伝わる伝承。その伝承の中に【空に十個の太陽が昇り、地上が灼熱に包まれる。その太陽を九個撃ち払い、陽の光を制限する】と言う話がある。数年前、この国の空に、縦に並ぶ二つの太陽が出現。それを伝承の現象の予兆だと感じた兄は、国を守るために【神下の力】を使い、一つの太陽を打ち払う。しかしそれは太陽ではなく、太陽神【燭隠】の目であった。燭隠は怒り、この国に三月の闇をもたらした。三ヶ月続いた闇に困った兄は、燭隠に代償を払う代わりに闇を払うように頼んだ。すると燭隠は、兄の体を乗っ取り、国に昼を戻した。燭隠は傷ついた眼を治す為、世界中に居る【太陽の子】を喰らい、傷を治している』
と、言うことらしい。つまり、龍妃の兄は今、黒龍の体の燭隠という事だ。そして、ララは燭隠の言う太陽の子らしい。何をもって太陽の子と判断したか知らないが、ララが喰われる前にララを助けなければ。もちろん黒龍もだ。
「龍妃。その燭隠の所に案内してもらえるか?」
「いいよ!でも、気を付けてね。燭隠は神様だし、兄様も神下の力がある。神様の力と神下の力か合わさったら…」
「大丈夫だ。いままでたくさんそーゆーのと戦ってきたからな」
龍妃の案内の下、王宮の中に潜入。その間、燭隠と黒龍について聞けるだけの情報を聞く。太陽神というのだからやはり強力な火の魔法なのだろう。もしくは光の魔法。
「魔法は?どんな魔法なんだ?神クラスの魔法を受けるのはこれが初めてなんだ」
「…魔法?魔法なんて使わないよ?」
「え?体術だけ?」
「違うよ、妖術を使うの。だって魔法は西の術でしょ?」
「あぁ、そう言えば」
東の地域の国では魔法は使われない。先祖代々使ってこなかったから、使えないのだ。しかし、その手の類の物がないわけではない。妖術という歴とした術がある。
「燭隠の妖術は分からないの。でも兄様の神下の力なら分かるよ!兄様は《隠》の力を使うの」
「隠の力?」
「そう。隠と陽。対になる力があって、兄様が隠。私は陽を使える」
「具体的にはどんな力なんだ?操る物とか、属性とか…」
「うーん…。操る物も属性も《隠》としか…」
やはり、この国の文化や流儀に不慣れな俺と、この国で育った龍妃では、少し理解し難い思考の違いがあるようだ。これではぶっつけ本番で戦う事になる。流石にそれは不利だろう。
「あなた達。どこへ行こうとしているのかしら?」
龍妃と燭隠の所へ向かう途中、王宮の門の目の前で、ちょうどコソコソしているところを一人の女性に見られた。
「もし、燭隠様の邪魔をするなら、通す訳にはいかない…‼︎その方は龍妃様⁉︎貴様、引っ捕らえてやる‼︎」
「大変‼︎逃げて‼︎」
女性はチャイナドレスの短いスカートの内に手を入れ、太ももに潜めていた呪符を取り出し、こちらへ飛ばしてくる。しかし、勿論紙なのでここまでは届かず地面にあっけなく落ちる。
「よけて!」
「え?何を…⁉︎」
龍妃の忠告に疑問を唱えていた時、地面が裂け、割れ目の土が呪符を軸に人間の形になっていく。あっという間に土人形が数十体と完成し、戦闘態勢をとっている。
「私の【《神下の力》土人形】、喰らいなさい!」
何十体もの人形がこちらに押しかける。動きも俊敏で、圧倒的に不利だ。そう思っていた時…。爆風と共に、ほとんどの人形が吹き飛ばされた。
「まったく。ちっちゃい子と一緒に居ると思ったら、厄介ごとね?ララはどーすんのよ」
「ロッド氏、その年齢差はどうだろうか…」
「二人とも、誤解してるぞ?これはカクカクシカジカで、ララの所へ潜入するところだったんだよ‼︎」
「なるほど、じゃあここは私が引き受けてあげる。二人はその子と一緒に中に行って!」
「ありがとうルナ!」
ルナのおかげで入口が突破できた。ルナならあの大勢の攻撃も避けれるだろう。とても心強い仲間でよかった。




