六日目・昼・騒動
闇の中に虚ろに光る蒼い眼。それは一つの光が闇を冷たく照らし、かすかに開かれた隙間から二つ目の光がさしている。二つの光が作る虚像の三つ目の眼が虚ろに揺らめく。その者の体は闇と一体化し、時より蒼い光を反射してギラギラと黒々とした体をその場に渡らせる。
闇の中、その者は手に何かを掴んでいる。それは拳で覆いきれない大きさの、凹凸のある一部に毛の生えた…人間の顔。その顔に光はない。この空間の闇に光を奪われたように、死の闇に光を委ね、この空間に溶けて行く。その者が砕くと共に、音はこの空間に反響し、闇を広げる。砕け散った顔の破片をしばし見つめて、踏みにじる。
「………。」
その者は語らない。語る事がない。語るのは、神事の時だけ。神の声を聞き、神と会話し、物を語る。語らないのは、語る必要が無いからだ。その者は人間と話さない。意思を伝える手段は"神下の力"
。人間には本当の声を聞かせる事はない。それほどこの者は、地位の高さを誇りに感じている。
「主よ。かの少女をお連れします」
「(うむ。通せ)」
〜
「目標の少女をお通しする準備が整いました」
「よくやった。これで我が国も栄光が戻るというものだ。」
これは何をどう考えても、私は誘拐されてしまったようだ。それも、私の知らない言葉を使っているところを見ると、かなり遠くの国だ。しかし、誘拐されたにしては、待遇が良すぎるような…。装飾の施された煌びやかな部屋に連れ込まれ、かれこれ一時間くらい。色々と恐い事をされるかと思っていたが、何もされていない。ドアの向こうから会話が聞こえるだけだ。今になって騒々しくなったのは、何か理由があるのだろうか。この時間でなければいけない何かが…。と、ここまで考えたが、そこまで大事でもない気がしてきた。ただ単にヤツらのボスがこの時間にここに来ただけのような…。私はここに囚われている限り、行動できない。ロッドさんたちが助けに来てくれる事を願う事しか。…助けに来てくれるだろうか………。
〜
ルナの魔法で、ララのいる場所を地図に示し出す。位置はかなり東の【華の国】。中華と呼ばれる独自の文化と流儀を発達させた、割と大きな国だ。【和の国】と同盟を組んでいたが、最近は対立している。
「いってらっしゃいませご主人様…」
「おう。留守番は頼んだよ」
「さぁて、すこし激しい旅行になりそうね。華の国に行ったら、華服を着てみたいなぁ」
「チャイナドレスもなかなか」
「二人とも…遊びじゃないんだぜ?」
ルナとリリアは向こうの文化に興味津々だが、俺としては向こうの軍事力の方が興味津々だ。太古の時代より築き上げた文明で、当初は世界一の軍事力を所有していたと言う。現在は進歩なく、あまり発展していないどころか少し衰退していると聞くが、その一方で新たな力に進路変更したと言う噂も聞いた。前に一度訪れた時は、料理が美味しかったイメージしかない。
「俺は服より料理が…」
「何々⁉︎料理も美味しいの⁉︎」
「それは是非とも食べてみたいな」
「食いつき良いなお前ら」
ララが連れ去られたという街までは、王国軍の馬車で向かっている。二日ほど掛かりそうだが、よく華の国のヤツらは一晩で移動できたものだ。空でも飛んだか?それとも魔法を学んだのだろうか…?とにかくこれほどの距離を移動できるほどの実力の持ち主。相当なやり手であると推測できる。これはかなり大きな戦いに発展する可能性があるな…。




