五日目・午後・特訓
剣と剣とが交差する。響き渡る金属音と、弾くたびに飛び散る小さな火花に、思わず顔を顰める。払っても、弾いても、押しのけても、いくら反発しようとも、相手は執念深く対抗してくる。それだけ本気なのだ。彼女の剣は、受けるのではなく、受け流す方がより良い回避だと感じた俺は、攻撃されるたびにその剣を受け流す。その都度彼女は新たな角度から攻撃を試みる。
「リリア。だんだん雑になってないか?」
「ハァ…ハァ…。そんな事はない。しかし、こうも当たらないとムカムカしてくる」
俺達は実剣で特訓している訳ではない。実剣なら、当たった瞬間大怪我である。そのためこの特訓には、ルナの魔法によって作り出された虚剣を使っている。この虚剣、当たり判定もあり、当たった部分は麻痺するのだ。特訓するのに実に便利である。当のルナはと言うと、ララと一緒にこの特訓を観覧している。傍のベンチでのんびりこちらを眺めているのを見ていると、こちらものんびり気分になる。
「隙あり‼︎」
「っ、残念!」
リリアの不意の攻撃もギリギリで避け、こちらの追撃。剣に両手を添え、下段からすくい上げるように斬り込む。リリアは頬を擦りながら、なんとか躱し右手に構えた剣をフルスイングでこちらへ斬り出す。俺も頬を擦ったが、なんとか回避する。斬撃が交差し、金属音が木霊する。なかなかの攻防に苦戦しているリリアを見ると、やはりこちらが優勢かと再確認する。
「そりゃ」
「…っ⁉︎」
「はい、終わり」
最後は俺がリリアの上段をスレスレで横へ躱し、背中を一発。あっけなさ過ぎただろうか。お互いかなり疲れていたし、一旦打ち上げたかったのだ。
「…やはり、ロッド氏にはまだまだ敵わないようだ」
「そうか?こっちはかなり疲れたけど…」
「二人ともー!終わったのー?」
「休憩〜。流石に疲れたよ」
ルナが声をかけ、うたた寝していたララが目を覚ます。相当暇だったらしい。
「…あ、ロッドさん。お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ。ララも暇だったろ?」
「そ、そんなこと無いですよ⁉︎ただ、昨日あまり寝てないので…」
「そー言えばそうだな」
確かに昨日は、夜遅くまで仕事をして朝帰り。そして、現在お昼過ぎだ。睡眠時間は結構少ない。しかもララのお年頃だと、成長期だろうに。
「旦那様方、シャワーの用意が出来ていますよ?」
「おぉ!ありがとうレミア」
レミアが気を効かせて、汗だくの俺達にシャワーの準備をしてくれた。早速この汗を流すとしようか…
〜
流石に女性の入浴時に侵入、などというハプニングで俺の名誉を汚したくないので、レディーファーストとして、リリアを先に入れてやった。これでもう酷い目に会う事はないだろう。女性の入浴後と言うのも少し緊張するが…。そんな事を考えていると、変な気分になって来るので、タオルを巻き、早々にシャワーへ向かう。俺は湯気を気にしつつ、ゆっくりドアを開ける。
「じゃーん♪」
「……。」
俺はそっとドアを閉めた。
「ちょっと⁉︎なんで行っちゃうのよ‼︎」
「ったりめーだろ‼︎なんでお前が居るんだよ‼︎」
「ロッドが来るの待ってたからね♪」
「それはアカン。それだけは…」
リリアの入浴後、既にルナがスタンバイしていた。タオルを巻くという入念な準備の下、俺を貶める罠を張っているのだ。
「ねぇ、みんなリビングに居るし、バレないよ?」
「そーゆー問題じゃねぇ‼︎ってか、お前は何しようとしているんだ⁉︎」
「もちろん、体の洗いっこ」
「もう駄目だ。もう手遅れ…」
ルナの発想が俺の考え通りなのは、それに対応できるという点では救いだった。俺の考えの斜め上を行っていたらもうおしまいだ。
「隙あり〜!」
「ぉわあ⁉︎」
ルナが俺に抱きついてきた。タオル越しとは言え、ほぼ全裸の男女が抱き合うと言うのはかなり来るものがある。
「えへへ〜。どぉ?それなりに良い体してるでしょ?」
「やめろ…マジでそれ以上は駄目だ…マジで許して…お願いします…」
最後は完全に声が震えてしまっていた。それだけマジなのだ。しかし、その声はルナにとっては勢いを加速させるものとなった。
「ロッドって面白いよね〜。ここまでしてんだから正直になればいいのに♪」
ルナは俺の太ももを下からなぞるように撫でまわす。もう無理。この状況は打破できない。
…もう、なるようになれ…




