一日目・少女と出会う
俺は最強の剣士になりたかった。
でも、人生そんなに甘くない。
なりたくたってなれないものもある。
それを思い知ったのは、まだ5〜6歳の頃だった。
〜リントの森〜
『キャーーーッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
俺が森を探索していると、どこからか女の子を叫び声がした。もうすぐ夕暮れ時だと言うのに。勿論、放っておいてもいいのだが、俺の性に合わない。助けを求める声がしたらすぐに駆けつける。親父からの言いつけだし、俺のポリシーでもある。とにかくその声の主を探さなくては…。
「おーい!どこだー?おーい!」
「ここです!ここ!ここ!」
しばらく探すと巨木の根と断崖の合間、少し深い谷のような隙間に女の子が落ちている。13〜4歳くらいだろうか
「大丈夫か!今助ける!」
そう言う俺は、持っていた大きな背負い鞄から長いロープを取り出した。それを腰に巻きつけ、彼女のいる隙間に放り込む。
「掴まってくれ!引っ張り上げるから!」
彼女は素早くそれを掴み、壁をよじ登る。救出にさほど時間はかからなかった。
「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいか…えっと…」
「ははっ!いいよそんなの。それよりなんでここに落ちたんだ?」
「あ///えと…その…/// 冒険を…してみたくて///」
「…冒険?」
「はい。ちっちゃい時から冒険に憧れていて、その…冒険してる人がカッコよくて…」
冒険ねぇ…それにしては変な格好だ。長いスカートにブーツを履いている。それに冒険はそれほどいいもんじゃない。これは断言できる。なんせ俺の本職みたいなもんだから。
「あぁ、そうだ。怪我、してない?」
「あ、えっと…少し」
「どれ、見せてみて」
彼女は長いスカートを恥ずかしそうに捲り上げた。どうやら太ももあたりを擦ってしまったようだ。
「あぁ、これならちょうど薬がある」
傷にはなるべく染みないように調合した薬だ。あまり刺激はないはず。
「あ、ありがとうございます///何から何まで」
「いや、大丈夫。こんなのしょっちゅうだよ」
「しょっちゅう…?」
「俺、アイテム商人してるんだ」
「アイテム商人ですか⁉︎」
「そ、そうだけど…?」
やたら喰いつきがいい。アイテム商人だと何か悪いのだろうか…?
「…‼︎す、すみません!急に話に喰いついたりして」
「いや、良いんだ。ところで、ここら辺に町か村か…王国とかないかな?」
「ありますよ!」
「もし良ければだけど、案内…頼めないかな?」
「勿論です!任せて下さい!」
どうやら根は元気で明るい子らしい。さっきまでおどおどしてた雰囲気がもうどこかへ消えてしまった。
〜ピサリ王国・国門前〜
「ありがとう。ここまででいいよ」
「いえ、私もここの住民ですし。それに宿とかどうするんですか?」
「どうするって…路上で寝る?」
「ダメです!そんなの!路上で寝るくらいならウチに来てください!」
なんかさっきまで元気が良いくらいだったのに、急に積極的になった。どうしたのだろうか。とりあえず、言われるままこの子の家まで連行された。ついでに夕飯まで。
「なんか悪いね…ご飯までご馳走になって」
「そんなことありませんよ?命の恩人ですから!」
「命の恩人なんて大げさな」
「いえ、それほど馬鹿げた話じゃないんです。ここ最近、龍神様の怒りが激しいらしくて。そのせいで森の精霊達や化身達も凶暴になってるって」
「本当か⁉︎ なら早くアイテム採取に行かなきゃ!」
「話聞いてました⁉︎」
「聞いてたさ!精霊や化身のアイテムの狩り時ってことだろ?」
「違います!森は危ないって事です!そのせいで騎士団を方々もピリピリしてます…」
「ふ〜ん…。あ、ねぇ。ご両親は?」
「両親は…死んでしまいました。二人とも」
「あ、悪い……」
俺の一言で一気に空気が重くなった。タブーだっただろうに。そこに無神経にも触れてしまったのだ…。今更ながら罪悪感が半端ではない。目の前のご馳走にがっつくことで気を紛らわせる。
「そうだ、商人さんがしてきた冒険の話を聞かせて下さい!」