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Elixir ―エリクシル―  作者: 光太朗
第三章 医師団
10/22

3-4

 数え切れないほどの赤い鳥が、月に照らされている。

 列をつくり、まるで隙間なく寄り添うことが義務であるかのように、屋根の上に並んでいる。

「鳥……」

 それを見上げて、サーラはつぶやいた。

 ガリエンには、何度訪れたかわからないほどだ。まだ町としての体制が整っていないころから、幾度となく足を運んだ。

 その鳥には、見覚えがあった。

 ガリエンでは馴染みの鳥だ。暖かい空気が流れ込むようになってくると、南の海からこの地方へと渡ってくる。なんという呼び名がついていたかは、覚えていない。

「ああ、それで」

 不意に、理解した。

 それはまだ可能性の段階だ。しかしそれ以上のことを、サーラはする必要がなかった。

 パジェンズの医師が、この町に来ている。

 彼女に任せておけば、問題ないはずだった。

 また、そうでなくてはならない。

 それは、彼女の存在意義だ。

 月明かりは、見慣れた形の屋根と、その屋根を覆う蔦も照らし出していた。サーラは闇に紛れて道を行き、玄関戸を叩く。

 鍵を開ける音。初老の女性が顔を出し、会釈をした。

「いるかしら」

 尋ねると、女性はうなずいた。

「医師と、男性が二人。医師は地下に」

「そう、ありがとう」

 微笑んで、ランプを受け取る。階段を下り、ドアを開けた。

 ベッドでは、少女が眠っていた。

 どういうわけか、男物の小綺麗な服を着込んでいる。短い茶の髪とどちらかといえば貧弱な体型にひどく似合っていて、サーラは思わず笑ってしまう。

「また、そんな格好をして。せっかく綺麗な顔をしているのに」

 サーラが身をかがめると、長い黒髪が前に落ちた。それを耳にかけ、少女の頬にそっと触れる。

「愛しいキルリアーナ。素敵な夢でも見ているのかしら」

 右手を、頬から首筋へと少しずつ動かしていく。

 シャツのボタンを外し、鎖骨の下、服の上からでは確認できない場所へ、唇を落とした。

 歯を立てる。

 血の味が、滲んだ。

「ああ、素敵よ、キルリアーナ」

 顔を離し、サーラは舌で唇を拭った。

 身体中の体液が、歓喜の声をあげていた。これほどの味には、久しぶりに出会う。

「きっともうすぐ、完成するわ。──ねえ、早くわたしと、ひとつになりましょう」

 眠るキルリアーナにそう告げると、サーラは微笑みを残し、部屋を出て行った。




挿絵(By みてみん)








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