その8 禁じ手。
真は必死に抵抗する。もがき、触手から逃れようとする。しかし、紫色で粘液に覆われた触手は、ぬるぬると、それでいてしっかりと真を掴んでいた。ザラリとした表面で、真の頬を撫で上げる。あっ、と真の口から思わず声が漏れる。そんな真にはお構いなしに、触手は更に真の躰を撫でていく。真は、助けを呼ぶようにして、少し涙目になってミカエルの方を見た。
すると、真を助ける立場であるはずのミカエルが、あろうことか真が受ける陵辱を少し興奮した目でただじっと見守っていたのである。
真は激怒した。
怒りの余り、彼の身を捕らえて離さなかった触手を意図も簡単に振りほどき、
「このやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
と叫びながら、恐らく魔力によって普段より強くなった脚で重力に任せてミカエルの下腹部のとある急所に飛びかかった。ミカエルは為す術もなく一撃食らう。ミカエルは思わず、言葉にならないうめき声をあげた。真はそんなミカエルにお構いなしに、今度は下から同じところにもう一発。
ミカエル、K.O.
そして。
真にはもう一人、倒さなければいけないものがいた。真は魔獣の方に向き直る。
今の彼に必殺技や、魔法の類はなかった。仮にあるとしても、それは自らの手で倒してしまった変態堕天使にしか知り得無いことであった。あるのはただ、己の身体のみ。真はこの危機的状況をどのように打破するのか。
真が出した答えはただひとつ。
急所を狙うのみである。
真は、体ひとつで魔獣の方へと駆け出す。魔法少女になった効果か、油断さえしなければ敵の触手など簡単に避けることができる。真はただ、突き進んだ。
真は魔獣の前までたどり着くと、巨大な魔獣の脚の分かれ目の、とある急所へと狙いを定める。そして、真は満身の力を、己の腕に込めて。
次の瞬間、魔獣もまた、声にならない悲鳴をあげて、その場に倒れこんだかと思うと、今度は魔獣の体が透けていき、跡形もなく消え、何事もなかったのように、また世界が動き出した。
真、勝す。男としてやってはならないことをしたような気がしたが、今の彼にとってさほど問題ではなかった。
彼は満足気な笑みを浮かべた。傍らで筋肉ムキムキん変態堕天使が一人倒れているが、まるで真にはそれが全く目に入らないかのようだった。そして、真は日常に帰るため、魔法少女の衣装を…
衣装を…
脱げなかった。その服を脱ぐ方法さえも、傍らの堕天使のみが知ることなのであった。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
恥ずかしさの余り、真は思い切り叫んだ。
――第1話 完――