その7 変身。
真は走っていた。廊下を駆け抜け、階段を一段抜かしで駆け下り、グラウンドの砂を散らし、憎き筋肉堕天使の元へ。
鞄は走るのに、コンマ1秒でも早くあの男に怒りを突きつけるのには邪魔だった。途中、真はハートをあしらった、ゴールドとピンクの可愛いステッキをカバンから取り出し、鞄を廊下に落として走った。
全ては、今後、まともな中学校生活を送るために。
真は視界にミカエルを捉えた。少し遅れてミカエルがこちらを振り向くと、驚いた顔でこちらを眺める。
なおもスピードを緩めない真。焦りと戸惑いで立ち尽くすミカエル。そして。
その両方は、突然空中に掻き消えた。
真は、突然体が軽くなったような感覚になった。空を飛んでいるような感覚であった。しかし、それは時間にしてほんの一瞬であった。そして、真が次に見たのは…。
次に見たのは、妙にねっとりとした、謎の生命物体であった。真は唖然とした。そして驚くのも束の間、真の口は、なぜか真の意志に反し、唱えていた。
「変身!」
すると、真は白の光りに包まれた。そして、次の瞬間。
ピンで止められた少し長めの髪に、腕と胸だけを覆うリボンの付いた服。フリルのスカート。極めつけに、少女のような真の華奢な身体と、その顔立ち。魔法のステッキ。
その姿は完全に、魔法少女であった。
真はとても恥ずかしかった。普段の真なら、羞恥に耐え切れずに顔を赤らめ、一目散にその場から逃げていたことだろう。
しかし、今は違った。戦わなければならないという、自分でも訳のわからない熱い炎が、真の身体を支配した。そして、
「ま…魔法少女、只今参上…!」
と言い放つ。
ミカエルは思わず、涙を流して喜んだ。そして、敵は、一歩後ずさる。
真の体を支配する炎。躍動感。今なら勝てる。真はなぜか、そう思っていた。
そして、真はステッキを振りかざし、大きな声で叫んだ。
「必殺………」
そこでふと、真は気付いた。
自分の使う必殺技など、ひとつも知らないということを。
そうこうしているうちに、敵は真に迫りくる。そして、ネバネバとした糸を引きながら触手を動かし、いとも簡単に真をつまみ上げてしまった。
真は、捕らえられてしまった。