その5 出動。
「ま……真くん……」
凛花は声を震わせる。真は凛花の視線の先に目をやった。
不意に真の鞄から顔を出したのは、カエルだった。真は目を丸くして、
「どうしてこんなところに…?」
と呟いた。真は鞄の中からカエルを取り出して、窓の外に逃がそうとした。すると突然、カエルは真の手のひらから消えて、見えなくなってしまった。その代わりに、
「モゥ、なにするのよ!」
というミカエルの声が聞こえてきた。真は思わず、
「どうしてここにいるんだ!」
と、空に向かって抗議する。
いや、正確には真にしか見えないため、空に向かって抗議したように見える。それを見ていた凛花が、
「どうなさったんですか…?」
と尋ねた。先程よりも不思議そうな目で真を見る。真は慌てて、
「いや、何でもない、少し用事を思い出したんだ!ごめんね、また今度!」
と言うと、ミカエルを引いて教室の外へとかけていった。
二時間目の始まりを告げるチャイムが聴こえる江吉良中の校舎の裏。河野真の怒りのこもった声が響いていた。
「ついてくるなって言ったじゃん!どうしてここにいるの!?」
真は声を荒げる。ミカエルは申し訳なさそうに、
「マコちゃんのそばにいないと、魔法少女が出動できないから…。」
と答えた。真は、
「マコちゃん言うな!」
と突っ込む。そして、
「どうして僕がこんな目に…」
とぼやき、しゃがみ込む。4月始めの太陽は、校舎の影を濃く地面に落とす。
「とにかく、あまりカエル姿で現れないでくれ、弥富さんがびっくりしていたじゃないか。」
真はおろおろ声で言った。ミカエルは女々しく、
「ごめんなさい…」
と謝る。
それからしばらくすると、真はそっけなく、
「それじゃぁ授業に戻らないといけないから、僕は教室に戻る。」
と言ってさっと立ち上がり、ミカエルには目をやらずに、むしろ反らすようにして身体の向きを変え、校舎に向かって早歩きで入って言った。
一人残されたミカエルは、その場にしゃがみ込む。
ただ、時だけが過ぎていった。
真は教室につくと、先生に気付かれないように後ろのドアからそっと教室に入った。教壇には、国語科の二ツ杁紗弥が立っていた。おかっぱ頭に、真っ黒な目。それに、なぜかいつも巫女服を着ている。彼女はかなり毒舌で、その上怒ると恐ろしい。真は細心の注意を払って席に着く。
しかし、さっきまで空席だった席に突然誰かが座っているという状況に気づかないわけがなかった。真に、二ツ杁紗弥の厳しい視線が飛んだ。
「河和君、後で屋上。」
河和真、ここに死せり。
しかし、真に更に追い打ちをかける自体が発生した。
真の鞄に入った魔法のステッキが、可愛らしいメロディとともに、魔法少女の出動を告げたのであった。