その3 侵入。
「…じゃぁ、学校行ってくるね。」
真は、ミカエルに一言そう告げると、足早に洗面所へと向かう。
「モゥ、待ってちょうだい!」
ミカエルは黒々と光る図体をくねらせながら真を追いかける。真はそれに気づかないかのように、洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。
「…ねぇ、アタシも学校に行かないといけないの。あなたのそばにいないといけないから…。」
ミカエルがそう言うと、真は早口に、
「嫌だ。」
と答える。真は食パンをオーブンに入れて、昨日倒れた時のままだった制服から、新しい制服に着替えながら焼けるのを待つ。
あまりにもスルースキルが高い真に、ミカエルは声をかけることができなかった。やがて、食パンが焼けると、真は口に加えてもぞもぞと、
「ひゃ、ちふぉくふるはら、いっふぇひまふ。」
と、ミカエルに声をかけ、玄関を出て扉の鍵を閉めた。
ミカエルは一人、河和家に取り残されてしまった。ミカエルはその場で少し考える。そして、
「仕方がない、後をつけて学校に潜入するか…」
と呟いた。
ミカエルは、江吉良市立江吉良中学校の、グラウンドの隅、花壇の影に隠れていた。
ミカエルは、身体がとても大きかった。そのため、江吉良中の背の低い花壇では背中の羽が少し外に見えてしまうのである。一般人にはこちらの姿は見えないが、真に気づかれた日には命の保証がない。ミカエルは身をかがめる。
と、学校中にチャイムの音が鳴り響く。一時間目は、グラウンドで体育の授業があるらしく、校舎から少年少女が吐き出される。その中に、真の姿もあった。ミカエルは気づかれまいと、グラウンドの見える校舎の裏へと移動した。
ミカエルは作戦を立てる。
ミカエルは体育が終わるのを待ってカエルの姿になり、教室に帰るの後をつけ、真の鞄に忍びこむことにした。いや、真に気付かれないように、早めにカエルの姿になっておいた方がいいだろう。ミカエルは小声で、
「とらんすふぉーむ、いざ、カエルの姿へ!」
とつぶやき、少量の発光とともに小さな雨蛙へと姿を変えた。