その1 訪問者。
出会いとは突然なものである。河和真のそれもまた、突然であった。そして、今。
彼は、魔法少女として、妙にねっとりと絡みついてくる敵に捕まったところである。
時を遡ること約20時間、真はごく普通の中学生であった。空は澄み渡り、雲は空を流れている。太陽は光を放ち、そよ風が吹く。中学二年生になったばかりの真は、始業式だけの学校帰り、いつもの通学路を歩いていた。
肩の辺りまでで切りそろえた髪に、まるで女の子のように幼くも凛々しい、可愛さのある目鼻立ち。その容姿は折り紙つきで、実際、時々女の子と間違えられるほどであった。
そんな真がいつものように家に着き、玄関の扉を開けると、突然。
「モゥ!お待ちしておりましたワ!」
オネェ系、というのだろうか。ボディビルダーバリの筋肉に日焼けした肌、そして天使のコスプレの半裸の男が、突然玄関に立っていた。
「なんだよこいつ!」
真は思わず大きな声をあげた。
「これはこれは失礼致しました。私、大日本魔導協会の堕天使、ミカエル98世と申します。」
天使コスプレの男はどこからか名刺を取り出し、真に渡す。
「この度は、河野真様に魔法少女になって頂きたくこうしてここまでやって来た次第にございます。」
ミカエルは急にかしこまった態度でそう言った。
「魔…魔法少女!?」
僕は思わず声を上げた。
「だってボク、男だし…。」
真は顔を赤らめ、身じろぎする。その姿は、さながら花も恥じらう乙女である。
「マァいいのヨ、ここにサインしてくれれば!きっといい魔法使いになるわヨ♥」
ミカエルははどこからか契約書を取り出すと、真の了解を得ずに署名欄に「河野真」と書きつけた。真はおもわず、
「やめろよ!」
と言ってミカエルから契約書を奪おうとする。しかし、相手はボディビルダー並みの筋肉を持つ男。真の反抗も虚しく、契約書はミカエルに拠ってまた何処かへしまわれた。そしてミカエルは、
「ありがとう♥」
と言って、真に投げキスをした。吐き気が真を襲う。
ミカエルはそんな真にお構いなしに、
「これが魔法のステッキよ。これを振ってポーズを取れば変身できるわ。」
と言って、真に魔法のステッキを差し出す。しかし、真は受け取ろうとはしなかった。すると、それに気づいたミカエルは急に低い声で、
「この契約を破ったヤツで、今も生きているヤツはいないそうだ。」
と言った。
真は目を回してその場に倒れこんだ。