魔法学校に進学したはずの親友が消えた
2026/2/19 本文中の「適正」「適性」を「適性」に統一しました。
西の陽が今にも隠れようかというころ。
アレンは自室で寝そべりながら、右手に握った鏡を眺めていた。
手のひらに収まるサイズのそれは曇っていて、自分の顔は映らない。
この鏡は、魔法学校に進学した親友のケイが消える前にアレンに託したものだった。
「聞いたよ、ケイ。『適性検査』通ったんだって?」
「うん! これで王都の学校に行けるよ!」
この世界には、魔力を持つ人間と魔力を持たない人間が存在する。
そのため、12歳の春に小学校を卒業する生徒には、魔力を持っているか持っていないかを測定する「適性検査」が義務付けられている。
「適性あり」と判断された生徒は、王都の魔法学校に進学することになるのだ。
適性を持つのは一部の生徒だけなので、みんなの憧れの的になる。
実際、5年生のアレンのクラスでも、ケイの噂は伝わっていた。
「しばらく会えなくなるな……」
……もしかしたら、一生。
適性を持つ者は少ないため、魔法学校を卒業後に王都で重要な仕事に就く者が多い。
ここに戻って来てくれたらいいんだけど、こんな田舎じゃいい仕事もないしな……
「でも大丈夫。こんな時のためにとっておきを持ってきたんだ!」
そう言うと、ケイは鞄からひどく曇った手鏡を2枚取り出した。
「ボクが開発した魔道具、『遠写鏡』っていうんだ!」
「鏡……?どうやって使うの?」
「2つでセットになってるんだ。ここに魔力を流し込んでやれば……ほら!」
ケイは片方の鏡をアレンに渡し、もう片方の鏡に右手をかざした。
すると、さっきまで曇っていたアレンの手元の鏡が光を放った。
光が晴れると、鏡の中に、自慢げに笑うケイの笑顔が映し出された。
「これでボクが王都に行っても、いつでも会えるよ!」
「すごい! よくこんなものを作れたね!」
「正直、出発までに完成しないかと思ったよ……」
ケイは「適性検査」を受ける前から魔力を持っていた。
それは1年くらい前のことだから、今のアレンくらいの年齢だ。
ケイの「適性」にアレンが嫉妬しなかったといえば嘘になる。
しかし、アレンが心から祝福しているのは本心だった。
「最初の『自動箒』の頃とは大違いだな」
「懐かしいな……。今となってはいい思い出だ」
ケイは、道具に魔力を込めたもの――魔道具に惹かれていた。
「自動箒」は、掃除をする手間を省けないかと彼が作った魔道具だ。
彼は「遠写鏡」に至るまでに数個の魔道具を作っている。
「自動箒」は散々な出来だった。
性能的には不足はなかったのだが、制御できなかったのだ。
起動した途端、家具類をケイごと見境なく「掃除」しようとし始めたのだ。
アレンとケイの2人がかりで退治したのは、2人にとっていい思い出だ。
「魔法学校で改良版ができるといいなぁ」
「今度は何を掃除するか、徹底的に教え込まないと」
『ボクの夢は、王都で誰も作ったことがないような魔道具を作ることなんだ!』
いつだったか、ケイが目を輝かせてそう言っていた。
ケイならきっとその夢を叶えられる。
「遠写鏡」を見て、そう感じた。
「まあ、こいつの弱点としては、声が伝えられないから会話ができないことかな」
「……その弱点、結構大きくない?」
――ともかく、ケイは魔法学校のある王都に旅立っていった。
ケイが消える直前の最後の通信は、出発から8日後のことだった。
どうやら彼は魔法学校に着いたようだ。
道中、毎日アレンと「遠写鏡」で通信していた。
移動中や宿から、ケイは手紙を用意してくれていた。
内容は、旅の出来事や魔法学校への期待、そしてアレンへの他愛ない質問だった。
声を届けることはできないから、
こちらの返事は文字にして鏡に向けて見せるしかない。
ケイが会話もできる魔道具を開発してくれることに期待しよう。
ただ、手紙を書いて送るよりはずっと早い。
やはり便利な魔道具だ。
(アレン、やっと魔法学校に着いたよ。正直、めちゃくちゃ疲れた。)
ケイは徒歩で王都に向かった。
この辺境の村に馬車があるはずはない。
四日間歩き続けて、ようやくたどり着いたのだろう。
(魔法学校って、もっと大きいと思ってたけど、意外とこじんまりしてる)
(王城の近くだから、比べる対象が悪いのかもね)
国中の適性者が集まる学校だ。
そこまで小さいはずはないのだが……
もしかしたら、内部は魔法で拡張されているのかもしれない。
鏡と鏡がつながるくらいだから、空間をねじ曲げることもできるだろう。
アレンが次の文章に目を通そうとした、そのとき。
誰かに呼ばれたのか、ケイは鏡の前から立ち上がった。
魔力が途切れ、鏡は最初に渡されたときのような、曇ったただの鏡に戻った。
ケイが戻ってくるまでに、返信を書いておこう。
と、アレンは思った。
だが、
いくら待っても、ケイからの通信は、それきり二度となかった。
「説明してくれますか?」
ケイは男に連れられ、魔法学校の処刑部屋にやってきた。
大事なことなので二度言う。
処刑部屋に来た。
「じゃあ説明してやるよ、冥土の土産にな」
ケイがこの処刑部屋に連れてこられたのは、処刑するためだったらしい。
処刑するため以外に処刑部屋を使うことはないだろうし。
もはやここは魔法学校ですらないのか。
「なんでボクはこんなところに連れてこられたんです?」
「適性を持つ人間を排除するためだよ。
『適性検査』もそのためにあるんだ」
わけがわからない。
―――それとも、理解していても認めたくないだけかもしれない。
排除?なぜ?どうやって?何のために?
「考えてもみろよ。
もし『適性者』が人を殺して回ったら?
……『適性者』じゃないやつらにはどうしようもない。」
「そんな…あり得ないですよ!」
「一般には知られていないが、200年ほど前は、適性者が社会の中にいたんだ。
生活はさぞ便利だっただろうね。
そんななかで悲劇は起きた。
とある『適性者』の少年が、人を殺し始めたんだ。
遊び感覚でな。
他の『適性者』もいたが、彼らは少年を止められなかった。
少年の『適性』は強すぎたんだ。
結局、少年が風邪をこじらせて死ぬまで殺しは続いた。
世界の人口は殺しが起こる前と比べて50分の1まで落ち込んだ。
信じられるか?
今はもうすこし回復したけどな。
それだけその少年に殺されたんだよ」
初めて聞く内容だ。
ケイは信じられない様子だったが、腑に落ちることもある。
「『少年』が再び現れることを防ぐために『適性検査』があるんですね?」
「少年は当時14歳だった。それより幼いうちに消しておこうってわけだな。」
「14歳でそんなひどいことを…14なんてまだ子供じゃないですか!」
「お前が言うか…?」といった呟きが聞こえたが、無視しておこう。
「皮肉なもんですね。才能ある人間ばかりが命を落とさなきゃいけないなんて」
「あんたには『少年』みたいなことはできないだろうな。
だけどな、万が一は許されないんだ。絶対に」
ケイは抵抗する素振りは見せなかった。
もし抵抗しても男は返り討ちにする実力があるだろう。
―――「少年」ほどの適性を持たない限り。
諦め?
絶望?
ケイの表情からは何も読み取れない。
「最後に…言い残すことはあるか?」
「―――ボクは誰を恨めば良いんでしょうね?」
ケイの瞳が光った。
西の陽が今にも隠れようという頃。
アレンは自室で寝そべりながら、右手に握った鏡を眺めていた。
手の平に収まるサイズのそれは曇っていて、自分の顔は映らない。
「…おかしいな」
ケイの通信が途絶えてから2日が経った。
ケイは何も言わずに連絡を断つようなやつじゃない。
(忙しくて僕と通信している暇が無いのか?)
いや、それならそういった内容の手紙を見せてくるだろう。
(「遠写鏡」が壊れたのかな?)
そうだったらアレンにはどうしようもないが…
いや。
魔法学校には一流の適性者がたっぷりいるんだ。
不具合なんて直せるだろう。
(没収でもされたのか?)
前回の通信の最後の方、誰かが来てたしな。
そうだったらまずい。
ケイとの通信手段がなくなる。
―――不意に、鏡が光を放った。
(通信が来た!)
アレンは期待に満ちた表情で鏡を覗き込んだが、そこには何も映っていなかった。
…いや。よく目を凝らすと、わずかに模様が見える。
箱の中にでも仕舞われているのだろうか。
(だとしたら、なんで通信が来たんだ?)
ケイは、「魔力を流し込めば」お互いの様子が映ると言っていた。
ケイが通信を始めた様子はない。
(まさか…僕にも『適性』が?)
1年後、アレンが適性検査を受ける年がやってきた。
初投稿作品です!
皆さんの印象に残れば幸いです…!




