表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘の世界1

白い欠けの列

作者: ハル

壁一面に刻み目がある。

深さも間隔も揃っていないが、数えるためだけに存在していることは明らかだった。

ここでは誰も滞在しない。ただ数が減るのを待つ。


減る理由はないが、

待つ行為だけが

残っている。


彼の名はユキト。判断基準は単純だ。

減らせなかった数は、最初から持っていなかったことにする。


選ばなかった手は存在しない。

そう決めている。


後悔という言葉は数に換算できないので、彼の中では使われない。



ユキトは刻み目を左から右へなぞり、指で空気を押す。

押した分だけ数が減ると信じているわけではない。

ただ、押さなかった刻み目は残る。

それだけだ。


隣では背の高い女が、刻み目を写真に撮っている。

撮った数と残った数の対応は気にしていない。


少し離れたところで老人が刻み目に名前をつけて呼んでいるが、返事はなかった。



刻み目の途中に、ひとつだけ追いかけたくなる欠けがある。

数の途中に空いた白。

どこから来たのか分からない。


ユキトはそこを飛ばす。数えない。数えないものは存在しないからだ。


彼はいつも同じ速度で進む。同じ力で押す。

同じ順でなぞる。判断は揺れない。

揺れる必要がない。


後ろから少年が走ってきて、刻み目を二つ消しゴムでこすり、消えないことを確かめて去る。

関係ない。



途中で、誰かが紙コップを積み始める。


五段まで積んで、倒さずに立ち去る。

理由はない。


ユキトは見ない。


その日、最後の刻み目まで指が届いた。

いつもならここで数は合う。

減らせなかった分は最初から無い。


残った数は正しい。

だが、何も起きない。

数は揃っているのに、結果だけが来ない。



刻み目は消えず、白い欠けも残ったままである。


ユキトは一度だけ立ち止まる。

判断は変わらない。

規則も主体も目的も保たれている。


ただ、結果だけが成立しない。

押し終えたのに終わりにならない。


老人は名前を呼び続け、女は写真を確認し、少年は戻ってこない。



ユキトは白い欠けをもう一度見る。

追いかけたい衝動が数に変換できず、宙に浮く。


彼はそれを数えないと決めたまま、最初の刻み目に戻る。

指を伸ばし、同じ力で、同じ順で、同じ数をもう一度数え始めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ