不思議な女の子の続き
その次の日詩音が家の前で座って一人で朗読していると誰かがこっちをみてるのに気がついた。
あの女の子だった。
詩音は気づいていたがわざと知らんふりして朗読を続けた。
まだその女の子はこっちをみてる。
詩音は今度はわざと視線を合わしてみた。
女の子はさっと姿を隠した。
朗読を続ける詩音。
また女の子がみてる。
詩音が外にいるときは毎日来ていた。
ある日詩音がふと視線をあげるとあの子が前にいた。
「なに?」
詩音が聞くと
「あなたの声と言葉が聞きたいの…」
その声と言い回しはなにか別人の大人のようだった。
その日は日差しが強かったせいか、それともその子が白い服で肌も白かったせいかキラキラと輝いていたように詩音には見えた。
「まぶしい…」
そう感じて思わず目を細める
そのキラキラが消えたと思ったらその子もどこかへいってしまっていた。
そのことをフィエナに話すと
「……きっとあんたの声とことばがよっぽど気にいったんだろうね(笑)」
「どこの子かな…村の子?」
「わからないけど。あなたの声と言葉には力があるからね…」
それから数日後
詩音が外で朗読をしていると村の子供達が一人また一人と詩音を覗きにくるように。
そして詩音の朗読を聴くように。
詩音もその子たちに向けて言葉を伝えるように読んだ。
そのうち詩音の周りには子供たちの輪ができるように。
そして一人また一人詩音と一緒に声を出して読むようになっていった。
そのうち大人たちも幾人かは一緒に聴くようになってきた。
その光景を遠くからあの女子がニコニコ微笑みながら嬉しそうにみていたのは誰も気が付かなかった。
いつしか詩音は村の広場で子供はもちろん、大人たちにも声と言葉を伝えるようになっていた。
ある日、詩音はひとりの男の子に声をかけた。名前はユーリ。言葉をほとんど話さず、いつも目を伏せていた。
「少しだけ、聴いててくれるかな」
そう言って、詩音はページを開いた。
> 「うつくしいものを うつくしいと 言えるあなたの こころがうつくしい」 ― みつを
詩音の声は、決して大きくなかった。でもその調べは、静かに、やさしく空気を震わせていた。
ユーリは、ふと顔を上げた。そして、ほんの少しだけ口角を上げた。
笑ったのだ。
詩音は息を呑んだ。まるで花が咲く瞬間を見たかのようだった。
その日から、村では小さな変化が起き始めた。子どもたちが「もう一度読んで」と言ってくるようになり、大人たちも「詩音ちゃんの声を聴いていると心が落ち着くね」と言い始めた。
それはさざ波のような変化だったが、確かな手触りがあった。
詩音はその声に答えず、ただ静かに、焚き火の揺らぎを見つめていた。
けれど胸の奥では、たしかに何かが芽吹きはじめていた。




