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この世界に来た意味

日々の暮らしの中で、言葉と共にある時間は、詩音にとって新しい世界だった。

毎日毎晩一人で言葉を唱え続けた。

それをフィエナはいつもニコニコしながら時には頷きながら聞いてくれた。

詩音にはそれがうれしかった。

誰かが自分の言葉を聴いてくれる

それだけで 

なにも否定しない

バカにしない

茶化さない

彼女の朗読に耳を傾け、感想をくれる人がいる。

表情の機微や言葉の余韻を受け取ってくれる存在がいる。

それが、詩音にとってはどれほど奇跡的なことか。


「あんた全部覚えてるのかい!すごいね!なにかの力かね…」


詩音は自分の好きな作品の好きな文章は数ページにわたり覚えていた。ノートにはその文章の冒頭部分と文末が記されているものもあった。

これは今まで誰にも知られていないことだった。誰にもそんなことを話すきっかけもなくきたから。詩音自身もこのことについてなにか考えたこともなかった。ただひたすら自分のため、楽しいからとか、自分の心を守るためとか、それだけ考えていたからだ。


そして詩音は、心のどこかで確信していた。この世界に来れたのは、きっと、言葉の力を信じていたからなんだ。そして自分の持つ言葉への真摯さを失わないようにするためだと。


彼女は朗読を続けた。まるで、祈るように。


> “心が自然と再び通いあうとき、 わたしたちは言葉の中に、世界を築いていく。”


(ワーズワース『ティンターン寺院』より)


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