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残酷な答え

噂は、風よりも早く広がった。

 黒い騎士たちが、無残に倒れたこと。

 言葉ひとつで、兵を滅ぼす少女がいるということ。

 それが、奇跡ではなく――裁きだったということ。

 街道を渡り、酒場を巡り、祈りの場にさえ囁かれていった。

 やがて、その話は――

 かつて、シオンの言葉に救われた人々の耳にも届いた。

 ある村では、病床にあった子を看取った父親が、噂を聞いて顔を上げた。

「……そんなはずはない」

 彼は、首を横に振った。

「シオンは、あの子に笑っていいと言ってくれたんだ。

 あの子が自分を責めなくていいと、言葉をくれたんだ」

 彼の声は、かすれていた。

 別の街では、かつて母と和解できた少女が、涙を浮かべながら言った。

「違う……あの人は、誰かを傷つけるために言葉を使う人じゃない」

 だが。

 否定は、やがて形を変える。

「……もし、本当だとしたら」

「もし、あれが事実なら」

「それでも――それは、もうシオンじゃない」

 人々は、そう言い始めた。

 信じないために、切り離したのだ。

 あれは別人だ。

 あれは、偽物だ。

 あれは、言葉を歪めた怪物だ。

 そう言えば、

 自分たちが救われた記憶を、汚さずに済むから。

 皮肉だった。

 シオンを否定し始めたのは、

 彼女を最も強く信じていた人々だった。

「私たちを救った人は、あんなことをしない」

「シオンは、もっと優しかった」

「人を壊す言葉なんて、使うはずがない」

 それは、責める言葉ではなかった。

 怒りの言葉でもなかった。

 ――ただの、拒絶だった。

 そして、その拒絶は、

 言葉の力を信じる世界において、

 最も重い否定だった。

 シオン自身は、それを直接聞いたわけではない。

 だが、感じていた。

 朗読をしなくなった場所。

 視線を逸らされる街。

 名前を出すことを避けるような沈黙。

 そして、風に混じって届く断片的な声。

「……あの子は、違う」

「もう、信じられない」

「救われたけど……今は、怖い」

 それらは、刃よりも静かで、深かった。

 ――ああ。

 シオンは、薄く笑った。

 結局、同じだ。

 前の世界でも、

 言葉を使えば使うほど、誤解され、拒まれた。

 この世界でも、

 言葉を持ったがゆえに、否定される。

 しかも今回は――

 自分が救った人たちの言葉で。

 言葉の力が、

 人を救い、

 人を壊し、

 そして――自分自身を、否定する。

 それが、はっきりと理解できてしまった。

 この世界でも、私は――

 居場所を、失っていく。

 その否定は、暴力ではなかった。

 怒号でもなかった。

 だからこそ、

 シオンの心を、静かに、確実に、削っていった。

 言葉によって救われ、

 言葉によって壊される。

 それが、この世界が彼女に与えた、

 あまりにも残酷な答えだった。

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