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守るための言葉、排除するための声


再会してからのシオンは、

明らかに変わっていた。

町外れの広場。

夕暮れの空の下、アルヴェンとリゼルが人々の前に立つ。

リゼルの声は柔らかく、

親から受け取った言葉を紡ぐようだった。

「……怖くてもいい。

 泣いてもいい。

 それでも、あなたはここにいていい」

その言葉に、

人々の表情がゆるみ、

言葉の精霊が淡い光となって漂い始める。

アルヴェンはその様子を見ながら、

静かに周囲を警戒していた。

そして――

必ず現れる。

影のように、

人の悪意を借りた“妨害者”。

野次。

嘲笑。

怒りを煽る言葉。

「そんな甘い話で、何が変わる!」 「言葉で腹は満たせない!」

その瞬間だった。

アルヴェンよりも先に、

シオンが一歩前に出る。

彼女は人々を見ない。

妨害者だけを見る。

唇が動く。

低く、鋭く、

刃のような声。

「――退け。

その言葉は、ここに不要だ」

たった、それだけ。

だが空気が、

一瞬で凍りついた。

妨害者は、

胸を押さえ、膝をつく。

叫びも、反論もできない。

言葉が、喉で砕けて消える。

ノイズが、

黒い煙のように漏れ出し、

苦悶の声を上げて霧散する。

人々は気づかない。

ただ「静かになった」と感じるだけ。

朗読は続く。

守られるように。

――そう、

守られている。

アルヴェンとリゼルは、

シオンの“後ろ”で。


朗読が終わり、

人々が去った後。

アルヴェンは、

無意識にシオンを見ていた。

(……違う)

以前のシオンは――

言葉を差し出す人だった。

「誰かのためになれば」と、

恐る恐る、祈るように声を出していた。

今のシオンは――

排除するために、迷いなく声を使う。

相手がノイズだと分かっている。

それが必要な行為だとも、理解している。

それでも。

(……あれは……

 “守る言葉”じゃない……)

守るために、

誰かを傷つける言葉。

正義の形をしていても、

その根は、戦いだ。

アルヴェンは、

シオンの横顔を見る。

彼女は無表情だった。

疲れている様子も、

達成感もない。

ただ、

役割を果たした後の“空白”。

(……シオンは、

 自分が何をしているのか……

 分かっていない……)

アルヴェンの胸に、

冷たい不安が広がる。

リゼルは気づいていない。

人々の感謝に微笑んでいる。

だがアルヴェンだけが、

知っていた。

この構図は、

長く続けてはいけない。

――言葉は、

剣になり続ければ、

必ず持ち主を削る。

そして、

声を代償にした少女は、

削れるたびに、声を取り戻せなくなる。

アルヴェンは、

言葉にできないまま、

拳を握りしめた。

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