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力のことば

王都郊外、崩れかけた街道。

ノイズに支配された国王軍の兵士たちが、

剣を抜き、アルヴェンとリゼルを囲んだ。

「抵抗は無意味だ。 王命である」

その声は人のものだったが、

言葉の裏に、ぬめりつくような悪意があった。

次の瞬間―― 

ことばが発せられた。


現れたのは、シオンだった。

傷だらけで、

痩せ細って、

それでも真っ直ぐ立っていた。

「シオン…」

探すつてもなく、時が過ぎていた。

それが今再会することになるとは…


現れたシオンはスッーと前に進み出た。

あまりに貧相な小さな少女がなにも恐れず一歩一歩前に出る。


アルヴェンが叫ぶ。

「シオン、下がれ!」

だが、シオンは振り返らなかった。

唇が、ゆっくりと動く。

そして――

声が出た。



「――聞け。

名を持たぬ悪意よ、

偽りの正義に身を借りたものよ。

言葉は支配のために生まれたのではない。

恐れを煽るためでも、

人を縛り、沈黙させるためでもない。

言葉は、

立ち上がるために在り、

傷を抱えたまま前を向くために在る。

ならば退け。

他者の心を踏み台にして進む者よ。

ここには、

偽りの神も、

奪われた声も、

もはや居場所はない――」




それは、叫びではなかった。

呪文でも、命令でもない。

ただ、

“世界に向けた言葉”だった。

シオンの声が響いた瞬間、

言葉が兵士達に絡みついた。

兵士たちは、言葉に縛られ動きを止める。

「……っ、ぐ……!?」

言葉が

腕に、脚に、胸に――

鎖のように絡みつく。

剣を振り上げたまま、

一人、また一人と膝をついた。

苦しみ方は様々だった。

叫ぶ者。

息ができず、喉を押さえる者。

涙を流しながら、地に伏す者。

だが共通していたのは――

誰も、憎しみを叫ばなかったこと。

彼らは、ただ

「立てない」

「進めない」

それだけだった。

まるで、

自分の中の“歪んだ言葉”だけを

引き剥がされたかのように。

アルヴェンは、呆然と立ち尽くしていた。

(……これは……)

リゼルも、息を呑む。

(言葉が……

 違う力になってる……)

だが、

シオン自身は――

何が起きたのか、分かっていなかった。

声を出した。

それだけだった。

ただ、胸の奥がひどく冷えて、

身体の力が抜けていく。

「……?」

倒れる兵士たちを見ても、

恐怖も、達成感もない。

まるで、

自分ではない何かが、

勝手に世界に触れたような感覚。

――精霊に、支配されている。

その事実に、

シオンはまだ、気づいていなかった。

彼女はただ、

呆然と立ち尽くしながら、

そのことだけを、

ぼんやりと考えていた。

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