疑念の中の朗読
ある領地では、シオンたちに意外な知らせが届いた。
「領主様が、直々に館にお招きになりたいと」
シオンとアルヴェンは互いに顔を見合わせた。
拒絶されることもある中での“歓迎”に胸が揺れる。
だが同時に、何か言い知れぬ警戒もあった。
館の大広間。
磨き上げられた床、壁に飾られた大きな絵画、煌びやかな灯りの装飾。
その中央に、椅子を整然と並べられ、領主とその家族、そして家臣たちが静かに座していた。
豪奢であるはずの空間が、妙に冷たく感じられる。
シオンは緊張を抑えながら朗読を始めた。
朗読が始まると、空気が変わる。
言葉の精霊が呼び覚まされ、人々の心を撫でていく。
固く閉じた表情の中にも、かすかな揺らぎが生まれる。
領主の妻の頬に、そっと涙が伝った。
朗読が終わった瞬間、大広間に拍手が響いた。
だがそれは温かいものというより、儀礼的で張り付いたような拍手だった。
「素晴らしい。見事なものだ」
領主は笑顔を見せたが、その目は笑っていなかった。
シオンが頭を下げると、ふと気づく。
部屋の四方に、無表情な兵士たちが立っていた。
ただの護衛にしては、あまりにも多い。
その眼差しは観客のものではなく、監視者のものだった。
(……歓迎されているのではない。試されているんだ)
シオンの胸が冷たくなる。
アルヴェンもまた、彼女の手にそっと触れ、小さく首を振った。
領主は椅子から立ち上がり、ゆっくりと二人に歩み寄った。
「お前たちの朗読……確かに人々の心を揺さぶるものだ。だが、力を持つ言葉は、ときに人を惑わすこともある」
その声は穏やかだったが、背後に潜む意図が見え隠れしていた。
――歓待の衣をまといながらも、疑念の影は消えていない。
シオンはその視線の冷たさをひしひしと感じながら、胸の奥で小さく息をのんだ。




