王命で翻弄されるシオン
シオンとアルヴェンの旅は、王の通達が出されてから大きく様相を変えていた。
ある領地では、村人たちが手を取り合い、教会に迎え入れてくれた。
領主もまた、「心安らぐ朗読は歓迎しよう」と笑顔で許可を出していた。
朗読が終わると、村人たちは涙を浮かべて感謝を伝え、シオンの胸にも温かな灯がともった。
――この道は間違っていない。そう思えた。
だが、その喜びは長く続かない。
次に訪れた町では、朗読は厳しく制限されていた。
「集まれるのは昼間のみ。場所は城門前の広場だ。兵士を立ち会わせる」
そう言われ、シオンは兵士に囲まれながら人々の前で本を開いた。
集まった人々は朗読に聞き入っていたが、終わるとすぐに兵士に追い立てられるように散っていった。
安らぎを与えたはずの朗読が、どこか後ろめたいもののように扱われる。その空気に、シオンは胸を締めつけられた。
さらに別の村では、広場に立つ前に兵士に止められた。
「朗読は禁じられている。王命に逆らうつもりか?」
冷たい槍先が突きつけられる。
シオンは声を失い、アルヴェンが彼女を庇うように前に立った。
村の人々は遠巻きに二人を見つめていた。顔には朗読を求める切実な思いが浮かんでいたが、それを言葉にする勇気は誰にもなかった。
二人は何もできぬまま、重苦しい沈黙を背負って村を後にするしかなかった。
――同じ王の通達でありながら、歓迎される場所もあれば、拒絶される場所もある。
その矛盾に、シオンは心を揺さぶられた。
朗読は本当に人を救うのか。
それとも、ノイズのように人を惑わせるものなのか。
夜、焚き火の前でシオンは膝を抱え込んだ。
アルヴェンは黙って隣に座り、炎を見つめていた。
やがて彼は静かに言った。
「たとえ人々が揺れようとも……君の言葉に救われた心は、確かにある。今日、それを見たはずだ」
シオンはゆっくりと顔を上げた。
心の奥で、かすかな光が再び灯るのを感じながら――。




