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詩音のことば

【詩音の朗読魔法譚】


■ 第一話「声にならない」


詩音は、小さなころから言葉に敏感だった。両親は教育熱心でたくさんの本を買い与えてきた。天井まで届く本棚が壁一面にありそこにとても小さな子供が読みそうもない。読めそうもない本がびっしり並んでいた。絵本はほとんどなかった。


両親の教育熱心さは詩音が言葉を覚える時期から始まっていた。両親は詩音に対してなるべく幼児語?を使わずに接してきていた。とにかく言葉に厳しかった。正しい言い回し、美しい日本語、論理的で無駄のない表現。それをことあるごとに詩音に要求した。


「その言い方、頭が悪く見えるわよ」

「“やばい”なんて言葉を使うな。語彙力が落ちる」

「お前の言葉は感情に任せていて浅い」


詩音は、口を開くたびにダメ出しをされ、言い直されていた。


そのうち、彼女は誰かと話すとき、常に“言葉を選びすぎる”癖がついた。


正しい言葉を使いたい。 間違った言葉で人を傷つけたくない。 怒られたくない。だから話す前に考えていた。考えないと話せなくなっていた。どの言葉がこの場合いいのか、こんな言葉を使うと意味が伝わらないのでは。それが幼稚園では周りの子が詩音に話しかけても、詩音は一生懸命どんな言葉がいいか、両親が教えてくれた言葉や覚えたての言葉を思い切り頭に浮かべて選んでいた。だが結局それは周りの子にしてみれば詩音が話をしてくれない。返事しない。なんにもお話してくれない。詩音ちゃん私のこと嫌いなんだ。無視する。そしてなんとか言葉がでてきても、


「なんかしゃべり方へん」

「何いってんのか分かんない」

「ポエムみたいでキモい」


となるのが日常だった。当然友達なんてできるわけがない。それでも彼女は必死に話そうとして言葉を探すことはあきらめなかった。常に静かだった。 思考が追いつかないふりをして、口を閉ざした。だが、そんな彼女を、周囲は理解しようとしなかった。親と話す時は何度も頭の中でシュミレーションしてから話すことが習慣になっていた。


中学生になると、陰口は直接的な悪口へと変わった。


「また無視? まじ腹立つ」

「どこまで他人の目気にしてんだよ。気持ち悪い」

「ガリガリで目も死んでて、ほんと無理」


教師も、詩音の言葉を真に受けず、「もう少し普通に話せないの?」と笑って見せた。


高校に上がっても状況は変わらなかった。


「また詩音のポエム帳タイム」

「よくそんな言葉覚えてられるね、逆にすごい(笑)」


詩音がどんなに人に優しくしようと、彼女の“言葉”は届かないまま嘲笑された。


ただひとつ、彼女にとっての支えがあった。


それは、分厚い雑記帳。

彼女が好きな文学作品、詩、名台詞、美しい表現を何年もかけて書き写してきた大切な一冊。


彼女はその雑記帳を、日々の隙間に取り出しては読み返した。


“言葉が救ってくれる”


“この世界がどんなに醜くても、言葉だけは美しいままでいられる”


その信念が、詩音を支えていた。

いつしか好きな文章は何も見なくてもスラスラ出てくようになっていった。

心を励ます時

癒す時

傷ついた時

いろんな時にスラスラ出てくようになっていった。

だか、それがまた周りの人々には気味悪がられた。

一人でなにか唱えてる

呟いてる

ブツブツ言ってる

ヤバい人…

これが詩音に対する周からの評判だった。

SNSサイトでも彼女の何気ない投稿が「ポエムすぎる」「気持ち悪い」「自分に酔ってる」と炎上した。


投稿の引用RTには嘲笑と攻撃の言葉。

過去の発言との矛盾をあげつらい、「偽善」「矛盾だらけ」「滑稽」といった非難が雪崩れ込んできた。


彼女の“言葉の宝物”が、ネット上で踏みつけられていた。


詩音は、スマホの画面を閉じることができなかった。


(……どうして……)


心が削られるような日々。

教室でも、家でも、世界は無音で重たかった。






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