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国王を騙すノイズ

かつて、この国の王は穏やかな人物だった。

若き日には笑みを絶やさず、誰よりも人を信じ、兵にも民にも分け隔てなく声をかける王だった。


だが――年月はその温和さを削り取った。

家臣の裏切り、信じた者からの毒酒。

陰口は陰湿に囁かれ、賛美の声は裏では悪罵に変わる。


「王など役立たずだ」「国を滅ぼす暗愚だ」


耳にした数々の言葉は、王の胸を蝕み続けた。

いつしか王は怒りっぽくなり、民を睨みつけ、罵声を吐くことをためらわなくなった。

かつて信じていた神の像にさえ、心を寄せることはなかった。


――だからこそ、その夜。

玉座の間に姿を現した「神のかたちをしたノイズ」を、王は一目見て嘲笑ったのだ。


「ふん……神だと? 笑わせるな!」

「我を守るどころか、民をも救わぬ虚ろな幻像が! 貴様こそ、人を互いに憎ませ、流血させてきた張本人よ!」


その声は広間に響き渡り、兵士たちさえ震えるほどの烈しさだった。

だが――偽りの神は怯まず、むしろ柔らかく微笑んだ。


「陛下……その怒り、その嘆き……我はすべて理解しております」

「人は裏切り、傷つける……神もまた、無力であった……」

「だからこそ、我はここに降り立ったのです」


王の眉間に刻まれた皺が、微かに揺らいだ。

ほんの一瞬、彼の胸に「理解された」という感覚が灯った。

だが次の瞬間、王は拳を振り上げるように怒声を吐いた。


「黙れ! 貴様もまた、偽りの使者よ!」


ノイズはそれ以上言葉を重ねず、霧のように形を薄めた。

――だが、それは敗走ではなかった。


その夜から、王は誰にも聞こえぬ声を耳にするようになった。

いつ、どこにいても、ふいに囁きが滑り込んでくる。


「陛下……あなたは独りではありません」

「民はあなたを責めるでしょう……だが、我だけは違う」

「あなたの怒りも、優しさも、我はすべて知っている……」


その声は、慈愛に満ちていた。

まるでかつての王が夢見た“理想の理解者”のように。

だが同時に、声は少しずつ方向を狂わせる。


「厳しくすることこそ、真の愛情です」

「疑うことこそ、国を守る唯一の術です」

「時に力を振るうことこそ、民を救う道です」


その甘美な囁きに包まれるたび、王は瞳を閉じ、知らぬ間にうなずいていた。

かつての優しい心は利用され、歪められ――やがて王は、自らの言葉で人を縛りつけるようになっていくのだった。


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