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朗読の余韻で人々の安らぎから不穏な気配の兆しへ

夕暮れの鐘が鳴り終えた頃、村の小さな教会には人々が集っていた。

質素な衣服に土埃をまとった農夫たち、針仕事を終えた女たち、子どもを背に負った母親。

皆、肩を落とし、深い疲労の影を顔に刻んでいた。


その静けさを破るように、詩音の朗読が始まった。

彼女の声は、澄んだ水が石を撫でて流れるように穏やかで、温かな響きを持っていた。

人々は次第に背筋を伸ばし、表情をほころばせていく。


――言葉の精霊。

それは朗読に呼応して教会の中に漂い、目には見えぬ光の粒子のように揺らめいていた。

やがて、重苦しい疲労や苛立ちは薄れていき、残るのは安らぎと静かな力だった。


朗読が終わったとき、教会はまるで別の場所になったかのようだった。

人々の頬は柔らかく、目には小さな光が宿っていた。

「ありがとう……」と誰かが囁き、他の者も次々と頭を下げ、笑顔で家路につきはじめる。


詩音は少し安堵した表情で、祈るように目を閉じていた。

アルヴェンもまた、その光景を見守りながら胸の奥に温かいものを感じていた――だが。


「……?」


ふと、アルヴェンの眉がわずかに寄った。

朗読の余韻に満ちたはずの空間に、かすかなざわめきが混じっている。

言葉の精霊が、揺らいでいた。

透き通る光の粒が、まるで風に煽られる火の粉のように乱れ始めているのだ。


背後――祭壇に据えられた神像。

いつもと変わらぬはずの石の像が、光の揺らぎの中で、わずかに「歪んで」見えた。

手を差し伸べるはずの微笑みが、影のせいか、嘲笑するように変わっている。

冷ややかな眼差しが、確かにこちらを見返した気がした。


アルヴェンの胸を不安が突き抜ける。

「……シオン」


小さく呼びかける声に、シオンは振り向いた。

その時、神像の表面にうっすらと黒い霞が走った。

一瞬にして消えたが、それが「ノイズ」の痕跡であることを、アルヴェンは直感した。


朗読で人々の心が癒やされるほど、ノイズは追い詰められる。

追い詰められたそれが何をしようとしているのか――。


「……これから、大変なことが起こるかもしれない」


アルヴェンの胸に、凍りつくような予感が広がった。

消えたはずの人々の疲労の影が、今度は別の形でこの村に忍び寄ろうとしていた。



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