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人に寄生するノイズ

ノイズの幼体は、酔客たちの吐き捨てる罵詈雑言、邪推悪意非難中傷嫉妬怒り嘆きなどありとあらゆる悪意をむさぼりながら、ずるりと床を這った。

黒い粘液を残しながら、音もなく人にじり寄る。


一人の男が気づかずに杯を傾けたその時――

黒い幼体が脚へ絡みついた。

男一瞬はなにかが、虫かなにかが足についたかと思い振り払うしぐさをした。

だがそれは、虫ではない。

筋肉のように締まり、血管のように脈打ちながら、男の脚を這い上がっていった。


黒それは男の胸から喉へとのぼり、最後には――口へ。

それでも男は気づかない。

男の全身に張り付いていたそれは次第に体内に浸透していった。


次の瞬間。


男の瞳が一瞬真っ黒に染まった。

すると男は一層険しい顔つきになり、目つきも尋常ではなくなっていた。

瞳の奥にはあの黒いものが鈍く蠢いていた。

震える唇が勝手に開き、そこから聞こえてきたのは男の声ではなかった。


「……ワレは……ここに在る……」


低く、重く、どこか人間を嘲るような響き。

酒場の客たちはその声には誰も気付かない。

相変わらず酔いにまかせて好き放題を大きな声で悪意をまき散らすものも…



「……悪意を……もっと……よこせ……」


男の声でありながら、別の存在が語っているのが分かった。

舌が勝手に動き、唇が勝手に紡ぐ。

誰にも聞こえないその言葉は毒のように周囲へと散り、聞く者の心の奥に眠る憎悪や妬みを揺り起こすしていた。


酔っている客たちの言葉がまたもノイズの糧となる。

酔い客の愚痴や嘆きを男は吸い込むたび、男の喉がありえないほど膨れ上がり、皮膚の下で蠢く黒い筋が浮かび上がった。


「……まだ足りぬ……」


そう呟いたのは、もはや人ではなかった。

人間の身体を仮初の器とし、ノイズそのものが喋っていた。

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