母親とのことば
母娘の絆の朗読
シオンがある街の広場の一角で朗読していると、すぐ前に少女と母親が朗読を目を閉じながら聞いているのに気づいた。シオンが少女に微笑むと少女は恥ずかしそうに母親の影に隠れてしまう。
でもその目はまっすぐで、シオンが発する言葉がどれほど大切なものか、しっかりと理解し 言葉に込められた想いを身体で感じているみたいだった。
その日の夕方、少女とその母親が詩音の元を訪れた。 少女はミナ。母親はシオンに「娘は、耳が不自由です。でもあなたの声を感じ取って言葉を理解したいと思っています。できれば、その文章を写させていただけませんか?」
シオンは快く了承し、ミナに文章をいくつか読んで聞かせた。 その中で、ひとつの文に強く反応した。 それは、子供が母親に向けて語る優しさと感謝のこもった詩だった。
ミナとシオンは毎日、その文を繰り返し唱えるようになった。 声にならない声で何度も口を動かし、シオンはそれを励ましながら一緒に読み続けた。 二人は共に言葉を紡いだ。
シオンはミナと一緒に何度も何度も声に出して読んだ 何日も読んだ
けど言葉にならない。 それをみている詩音はなんとかしてあげたくてもできない自分の無力さに悲しくなっていた。
必死になって言葉を出そうとするその姿はシオンには複雑な感情を抱かせた
「私は言葉に救われて今ここにいるのに 声に出すことで多くの人に役立っている…………… それをしたくてもできない人にはなんにもできない……………」
そして思わず抱きしめてしまう
ミナは目を丸くして驚いた。
構わずシオンはミナが読んでいた文を唱える。
ミナのみみもとで
ミナも一緒に言葉に出そうとする
2人はそうやってしばらく唱え続けていた。すると二人の声がだんだん共鳴しあうように。
そばでそれをみていたアルヴェンは言葉の精霊が二人を取り囲みながら舞っているのがみえていた。
精霊はミナとシオンの間を行ったり来たり…
互いになにかを結びつけているようだった。
やがて精霊達は母親の元へもなにかを届けているようだった。
今度はミナと母親の間を行ったり来たりしていた。
なにかを結びつけるように。
ミナの言葉がだんだんはっきりとシオンには聞こえてきた。
聞こえるようになったの?
ミナも自分の声が、言葉になりだんだんはっきりしてくるのがわかってきた。
でも自分で自分の言葉を耳で聞いてるわけではなかった.
頭できいていた 。
ミナは自分の声がわかるのに最初驚いていたがだんだん嬉しくて泣きじゃくりながらでも言葉にしていた。
別の部屋にいた母親は娘の泣き声を聞いて驚いてきてみて 自分の娘がはっきり言葉を話していたのを目にした。
信じられないという思いで聴いていた。
自然に涙がこぼれていた。
産んでから初めて聞く言葉。
母親の頭に今までの苦しみが蘇っていた。
それが母親の心を余計震わせていた。
その時シオンが母親をの方をみて 「お母さん」 とその子に優しく抱きしめたまま言うと ミナも「お母さん」と一緒に言葉にする
えっ?
ミナも目を見開いて驚いていた。
母親も同じだった。目を見開いて二人をみてる
シオンはもう一度 「お母さん」 という
するとまたミナも「お母さん」という
その言葉の先には母親がいた。
「 お母さん」とその子がシオンの言葉とは関係なく一人で言う
そして何度もその「お母さん」の一言を繰り返して言葉にしていた。 それはまるで、今まで言えなかったすべての想いを込めるように。
母親は何度も頷いていた。
そして娘は今度はお母さん と叫んで母親の元に駆け寄りそして2人は抱き合いながら泣いていた。
母娘が抱き合い涙を流すその光景を、シオンは静かに見守った。
「よかった…あの子はことばでお母さんとつながれたんだ…私は…… 」
「こんなふうにお母さんと思い切り呼んでみたかったなぁ……………お母さんて…」
シオンには母親とことばでつながっていたという感触を体験した記憶がない。母親のことばは「言葉」だった。
シオンは最後に、詩を母親に唱えた。
「おかあさん、 あなたの手はあたたかく、 あなたの言葉はやさしく、 あなたのまなざしは、 わたしの胸に、 ひとすじの光をくれました——お母さん、ありがとう」
その詩に宿る精霊が、二人を優しく包み込むように漂っていた。
そんな二人をシオンが一番喜んだし羨ましかった。
これから二人は言葉で繋がっていくんだろ。
言葉でつながる大切さをもっともわかってるのかもしれないとおもった。
二人は今までなくした言葉を埋めていくんだろうなとシオンは思った。
私は…
シオンは厳しい言葉の母親しか思い起こさせなかった。
「いいなあ……………」
あの子はこれからはことばを交わしていくんだろう…
自分には得られなかった母親とのことばのつながり…思いをのせたことばのつながり…
それがあったらどんなに心強かっただろ…
シオンには悔しかった…




