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自分のことば?



ある大きな街の通りの角で立ったままシオンは朗読をしていた。誰も振り返らない。立ち止まらない。でもそんなことはシオンにはどうでもいいこと。

側にはアルヴェンが黙って立っていた。正直シオンはこのアルヴェンの風体ではちょっと立ち止まりづらいのでは…(笑)と感じてはいたが…

そんな時何回も目の前を通りすぎる人に気づき始めた。同じ人が目の前を通っていく。

「あれ?またあのひとだ…」

時折シオンをちらりと横目で見て。

シオンはあることを思いついた。

アルヴェンに少し離れたところからみててほしいと。

「どうしてだ?」

「お願い…」

アルヴェンは仕方なくその場を離れて少し離れた角からシオンをみることにした。決して安全とはいえないことをシオンはしている。その自覚はシオンにはあった。

アルヴェンがいるからこそなんとか無事に続けられていることもわかっている。


シオンはそのまま朗読を続けた。

またあの人…

すると今度は足を止めてくれた。

少し離れたところから聴いている。

あきらかに…



「ちょっと怖い…」


声が少し震えてきた。

アルヴェンは少しずつちかづいていた。

いつでもシオンを守れるように。


シオンはだんだんうつむき加減に…

声も小さく…


まだその人は立ち止まっている…

なにか考えてるようだった。

と思うとその人はシオンに近づき出した。

アルヴェンも近づく

シオンを挟んで二人がだんだん近づいてくる。

近くまできてその人をみると、身なりはきれいで整っていた。


突然その人は声をかけてきた。


「君…」


驚いてシオンは声が裏返ってしまった。


「はっハイ!」


「突然声をかけて申し訳なかった。驚かせたのなら済まない。向こうの彼はお連れかな?」


その人はアルヴェンの方をみていた。


「ハイ!」


「う〜ん…私は危険な人物ではないよ。安心してくれ。」


「実は…なにかな…君の声とことばを聞いてるとどうも引っかかるんだ…なんて言うかな…なにかを思い出さないといけない…そんな気がしてくるんだ…なにかを忘れてる…それを思い出せそうなんだ…」


「はあ…」


シオンにはその人がなにをしたいのかさっぱりわらなかった。


「もう少しのような気がする…」


「明日もここでやるなら来てもいいかな…」


「もちろんです…」


「わかった…ではまた明日…」


その人はそういうと去っていった。


シオンとアルヴェンは今日のことを話しあった。

アルヴェンも危険な感じはしないので大丈夫ではないかと思っていた。


翌日同じ角に来るともう昨日の人が待っていた。

「おはようございます…」

「おはよう!」


シオンは緊張しながら朗読を始めた。

その人はじっと聴いている。

シオンが一休みしようとするとその人は尋ねてきた。

「君のそれは自分のことばではないようだが、君は他人の言葉ばかりで、それで満足なのか? 僕には僕の言葉がある気がする。なにか分からないが…君には君のことばはないのか?」


自分のことば?

自分のことば…


シオンが思い出すのは自分のことばをけなされ罵倒され非難された…そんなことだけ…自分のことばにはいいことは思い出せない…でも…誰かの言葉で私は救われていた…


「自分のことばで思いを載せてこそ人に伝わると私は思う。」


自分のことば…

それはないけど…


「私は自分のことばはないけど…誰かの言葉でも、伝えたいです。言葉に意味をくれた人の想いを──一緒にいろんな人のところに連れて行きたいのです」

「誰かのことばでかまわないから…思いを込められて伝えられたら…そのことばを紡ぎ出した人の思いを込めて…」


「それでいいのか?…」

「いや…それでいいなら、それでいいんだろ…」


そういうとその人は去っていった…


残された二人はなにが起きたのかわからないというような顔をしてただその人の後姿をみていた。



二人はこの街を離れた。

二人が歩く通りの二階でなにかを書き続ける人がいた。


彼はかつて、名を馳せた作家だった。ノイズが覆ってからというもの、何も書けなくなり、強迫観念だけが胸を締めつけていた。「なにかを書かなければ、なにを書けばいいのか…でも書けない……」


詩音の朗読を聞きながら、忘れていたなにかを思い出さなければという衝動が襲っていた。


「なにかを書かなければならない」と。


でも

「誰かの言葉でもかまわない…そのことばの思いを伝えること…」


そう聞いた時になにかを思い出せた。


その日から彼は、筆を取った。そして書き始めたのは、旅をしながら人々に美しい言葉を伝える少女の物語。

また一人ことばを取り戻した…


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