アルヴェン
夜、焚き火の炎が静かに揺れていた。
旅の途中で休む二人の間に、しばし沈黙が流れる。
アルヴェンは炎を見つめたまま、口を開いた。
「……俺には使命があるんだ」
シオンは火にくべた枝の音に耳を傾けながら、小首をかしげた。
「使命?」
アルヴェンは深く息を吸い、どこか遠い記憶を思い出すように語った。
「俺の一族は“言葉の精霊の守り人”の血を継いでいる。代々、精霊の声を聞き、その姿を見守ってきた。……だが精霊は長い間眠り続けていて、この世界はノイズに覆われてきた」
焚き火の炎がぱちぱちと弾ける。
シオンは黙ったまま耳を傾けていた。
「その精霊が再び目を覚ます時、異邦からの少女が“依り代”になる。……そう伝えられている」
アルヴェンの視線が、ちらりとシオンに向けられる。
シオンは思わず笑った。小さく、けれどどこか乾いた響きを含んで。
「異邦の少女? そんな……まるで物語みたい」
アルヴェンは真剣なまま言葉を続けた。
「俺は長老から、その少女を探し出す使命を託された。そして……この世界に、突然“外から来た娘”が現れたと噂を聞いた。だから探して……君に出会ったんだ」
詩音はしばらく黙り込み、手元の雑記帳をそっと抱きしめる。
そして淡々と答えた。
「……でも、それはきっと、誰か別の人。私じゃないよ」
アルヴェンの視線は真剣そのものだった。
だがシオンの胸には、その言葉が奇妙に他人事のように響いていた。
まるで自分のことを語られているのに、自分の存在と結びつかない。
焚き火がひときわ大きく爆ぜ、炎の明かりが二人の顔を照らした。
シオンは目を伏せ、心のどこかで「そんな特別な存在にはなれない」とつぶやいていた。




