人を傷つけることばの本当の力
シオンの言葉は、最初は辺りに吸い込まれていった。だが、シオンの声はだんだん吸い込まれることがなくなって辺りにとどまりそれが次々と重なっていくごとに、空気が揺れ、人々にその揺れが伝わっていく。そして辺りを温めていく。 言葉の精霊が力を貸してくれていた。人々の顔が歪む。それとともに人々を覆っていた黒いノイズがだんだん消えていく。辺りを覆っていた冷たいものとシオンの言葉が生み出す暖かさがぶつかり、せめぎ合いを始める。
「……あれ、何を……」
「頭が……」
「なにこれ……どうして、私……」
人々の目から濁りが薄れ、呪縛がほどけていくように、ひとり、またひとりとノイズが離れていった。霧のような黒い影が、ゆっくりと地を這い消えていく。
すると人々は今までまるで何もなかったように2人のもとから離れていった。まるでがそこにいないかのように。誰も振り返らなかった。
誰も自分達の言葉が力で傷つけたことなど知らないかのように、なかったことのように。
誰もが何事もなかったように日常に戻っていった。
あるものは楽しく会話し、あるものは仕事の続きを…
自分達が何をしたのかは誰も考えてもいなかった。
うずくまったままのシオンからは涙がこぼれた。
(あ…ここでも私はこんな目にあうんだなあ…)
シオンの中でいろんな出来事が思い出された。
ことばでたくさん傷ついた…
その一つ一つが痛みとともに思い出された…
アルヴェンが静かに手を伸ばし、彼女の肩に触れた。
言葉が力を持つ世界
人を傷つける本当の力
比喩でもなんでもなく
言葉が力を持つということの恐ろしさをシオンは感じ取っていた
きっと元いた世界でもみんな見えないだけで言葉による暴力は今のシオンのように本当に誰かの体を傷つけていたのかもしれない。
雨が降ってきた。
二人はうずくまったまま。
雨は容赦なく傷ついた二人のからだを打ち続けていた。
本降りになり、まるで水たまりの中にいるような二人はようやく立ち上がり歩き出した。
シオンの顔は泥と傷と血とそして雨が全て一緒になっていた。
足取りはおぼつかなかった。
痛みがそこら中にあった。
言葉が力を持つ
その世界の怖さ…
それをシオンは文字通り体全体で受けることになった…




