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ことばが力を持っているということ…

アルヴェンが前に出て、詩音を庇う。


「離れろ!」アルヴェンが叫ぶ。


「俺たちを騙すつもりか」「あの女の目を見ろ、まともじゃねえ!」


誰かが石を投げた。


それを皮切りに、言葉が力を持った。本物の力だ。石が投げられ詩音にあたる、叩きつけられる罵声。人々の一つ一つの罵詈雑言はあるいは鋭利な刃のように、あるいは棍棒のような鈍器に。

そして詩音に襲いかかる。詩音の皮膚を裂き、体を叩いた。

なにかにより言葉が本物の力となっていた。

この世界は言葉が力を持つ世界。

罵詈雑言、罵声の言葉が心を傷つけ、言葉もそれ自体が力を持ちそのものが暴力となる。


「いらない」「出ていけ」「死ねばいいのに」


詩音はうずくまる。手で頭をかばい、歯を食いしばる。言葉が心を打ち、音が、空気が、まるで棍棒のように肉体を打ち据えてくる。まるで目に見えない力が二人をこれでもかと打ち据えていた。詩音がからだをよじらせる。おなかをかばおうとする。

「怖い…痛い…」

詩音の手に血がにじむ…

言葉がこんな力を持つなんて…

目に見えないなにかであちこちを叩かれ、蹴られ、擦り傷、切り傷さえできていった。


詩音を必死で庇っていたアルヴェンも額から血を流していた。


ノイズの気配は、今や街全体を覆っていた。人々の憎悪と猜疑がそれに大きな力を与えていた。


「怖い…もうやめて…」

そう思いながらも子供の頃から必死に耐えてきたことを思い出していた。

あ…こんなこと何回もあった…誰だかわからないのに、ありとあらゆる非難中傷の連続…

心では「もうやめて」と何度も唱えてるのに声には出せない、でてこなかった。詩音の心は傷つけられていた。その時はことばだけだったのに…今は…


そのうち詩音はいつもなにかを心の中で読んでいた。

そうやって自分の心を必死に守ってきた。


だが今の詩音は震える声で、小さく何度も声に出して唱える。

何度も何度も繰り返した。

痛みに耐えながら。

きっと言葉の精霊が力を貸してくれる…

そう信じられる…



> “われわれが恐怖を感じるのは、未来に希望を持てないからではない。むしろ、それでも生きたいと思ってしまう自分を、許せないからなのだ。” ――フランツ・カフカ

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