ことばの力
旅は苦しかった。それでもシオンはあの村で、フェイナにいろんなことを教わった。薬草のこと、木ノ実のこと、水のこと、命をつなぐいろんなことを。それがシオンを助けた。アルヴェンも力になった。
そうやって、二人は山を越え、川を渡り、人のいるところでは朗読をした。そうして時は少し過ぎていた。
都市へと続く街道沿い、小さな村々で朗読をしながら、シオンとアルヴェンは北へ向かっていた。村々でも小さな精霊達が蘇りその村に残っていた美しい言葉や人の心を打つものがまた復活していった。詩音の噂は少しずつ広まりつつあった。旅は順調だったが、詩音の心にはまだ村での楽しかったことが残っていた。村を出てからだいぶ経つ。だが、あの広場での別れを思い出すたびに、あの村のことが愛おしくなる。
「……次の町は少し大きい。市場もある。そこで休もう」
アルヴェンの言葉に、シオンは小さく頷いた。
町に着くと、そこには思いのほかの人だかりがあった。商人たちが声を張り上げ、子どもたちが笑いさざめく。シオンはその喧噪に圧倒され、アルヴェンの背中にぴったりとついて歩いた。
広場の一角で、ひとりの少年がシオンの足元で転んだ。
「……大丈夫?」
シオンが声をかけた瞬間、それをみていた中年の男が険しい顔で詩音を睨んだ。
「今、何をしようとした?」
「助けようと……」
「いや、おまえ……何か呪いでもかけたのか?」
まるでその男の背後に黒い靄が差したようだった。空気がぴしりと張り詰める。一瞬あたりが冷たくなる。
ノイズ――。
かすかに聞こえる
嘲笑の笑い声…
アルヴェンはすぐに気づいた。場の空気に、違和の波動が混じっている。人々の目が曇り、猜疑と不信が小さなさざ波のように広がり始めていた。
「……あれが、あの女だ。言葉で人を操る魔女!」
ざわりと空気が震えた。
「何だって?」「魔女?」「あの言葉の力か!」
最初はひそひそとした声だった。だがそれは徐々に広がり、怒気を孕んだ怒鳴り声へと変わっていった。
「よそ者が」「気味が悪い」「うちの子が呪われたらどうする!」
人々の言葉が熱を帯びていく。そしてノイズがまるで地を這う黒い炎のように人々を覆い、人々はシオンたちを包囲しはじめた。




