あちこちに生まれるノイズ
夜の帳が降りた街。
それぞれの路地や家屋の隙間に潜んでいたノイズが、ゆっくりと動き始めていた。
市場の黒い靄は、人々の罵声を吸い込みながら、蛆虫の群れのように這い進む。
路地裏の影は、壁を染みのように這い登り、屋根の上から黒い液を滴らせた。
広場で固まり始めていた塊は、ぐじゅりと音を立てて膨張し、無数の小さな眼のような斑点をぎらぎらと開かせた。
それぞれは独立して存在していた。
だが、どこからか呼び合うように、ノイズは同じ方向へと動き出す。
どろどろ、ずるり。
溝を這うもの、屋根から落ちるもの、羽虫の群れのように空を飛ぶもの――。
形の違う黒の断片たちが、少しずつ、少しずつ、一箇所に引き寄せられていく。
やがて、街の外れの廃れた広場。
そこに集まった無数のノイズの塊が互いに触れ合った瞬間、ぞぶり、と粘液が弾けた。
それは腐肉と腐肉が押し潰されて混ざり合うような音。
耳に届くだけで吐き気を催す重苦しい響きだった。
ひとつ、またひとつと、黒い塊は合体し、より大きな塊となる。
伸びては絡まり、千切れては再び溶け合う。
その過程はまるで、見たことのない異形の胎児がこの世に生まれ出ようとするかのようだった。
やがて――。
地を這っていたノイズたちが、ひとつの脈動する肉塊へと集約され始めた。
それはまだ完全な形ではなかった。
だが、確かにそこに「意志」を宿したものが生まれつつあった。
夜風に乗って、低いざわめきが広がる。
まるで千の口が一斉に呟くように。
「……もっと……もっと……」
ノイズは欲していた。
言葉を。
憎悪を。
人間の心の闇を。
そして、その果てに――神を騙るほどの姿を得るために。




