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至る所にノイズがいる
この世界には至る所にそれはいた。人のいるところ必ず。
人の集まる街を歩けば、至るところに黒い影があった。
市場の片隅。
値切り交渉で声を荒らげる商人の背後に、どろりとした黒い靄が漂っている。
「安くしろ」「騙しているんだろう」――客の言葉が鋭く飛ぶたびに、ノイズはぶくぶくと膨らみ、細い腕のような影を伸ばした。
路地裏。
酔い潰れた男が「誰も俺を分かってくれない」とうわごとのように繰り返す。
その吐き出された絶望の一言一言を、ノイズは舌のような触手で舐め取り、にたりと笑った。
貴族の屋敷。
扉の向こうでは使用人たちが囁き合う。
「奥方はもうおかしい」
「旦那様は私たちを顧みない」
その陰口に応じて、壁の隙間から黒い液体がにじみ出し、まるで家全体が病んでいくかのようにじわじわと染み広がっていく。
そして、子どもたちが遊ぶ広場でさえも――。
「お前なんて仲間じゃない」
「バカ、消えろ」
無邪気な悪口が、知らぬ間に小さな黒い羽虫となって飛び交っていた。
その群れはやがてひとつにまとまり、どろどろとした塊に変わろうとしていた。
――ノイズはどこにでもいた。
誰の言葉の中にも、心の隙間にも。
ただ待ち続けている。
それを糧として、確かな形を得るその時を。
それがこの世界だった。




