呪いの中身6
白亜と金目の異次元の戦闘は、僅か二十秒程度で決着した。
道隆は瓦礫の山から這い出し、二つの影が落下した場所へと急いだ。
異界は嘘のように元の静寂を取り戻している。ともすれば何もかも夢だったのではないかと錯覚してしまうほどに、何者の気配も感じない。
白亜と金目が落ちた箇所はそれほど遠くはない。
普通に歩けば五分もかからない。その程度の距離が、酷く遠く感じる。
戦闘の音はもう聞こえない。
決着が着いたのだろうと道隆は思う。
どちらが勝ったのかは道隆には分からない。
どちらが勝ったにせよ、白亜の元に急がなければと道隆は足を急がせる。
道隆の怪我は軽傷である。
片方の鼓膜が破れており音は満足に聞こえないこと、両腕に凍傷があること、後は全体的に掠り傷程度である。ただ、度重なる死と絶望的な無力感と敗北感が、その体を重くしていた。ある意味、そちらの方が重症なのである。
やがて、落下地点に辿り着いた。
「は――」
道隆は言葉を飲み込んだ。
白亜は地面に倒れ伏していた。
その肩、背中、脇腹、太ももに禍々しい氷の槍が突き刺さっており、まるで死んだように動かない。
溶けた氷と血が混じって地面を濡らし、その只中に沈んでいる。
道隆は転がるように白亜の元へと駆け寄り、その体を助け起こす。道隆が悲鳴を上げるように呼びかけると、白亜は朧気に目を開いた。
白亜は薄く開いた目で道隆を見上げると「ああ」と、安堵したように吐息する。
「だい……じょ……ぶ……でした、か?」ひび割れた声で白亜は言った。「た、すけが……遅くなって……すみ……ません」
馬鹿野郎と、道隆は怒声を上げる。
謝るのはこちらの方だ。
何も助けになれなくて謝るのはこちらの方だと、道隆は泣き出しそうな声で叫ぶ。
白亜は力なく笑う。
体に刺さった氷の槍が溶けてきて、塞がっていた傷からの出血が増えていく。こういうものは抜いてはいけないと分かってはいたが、槍が消えてなくなるのは時間の問題である。
道隆は着ていたシャツを脱いで噛み千切り、槍を抜いて即座に渾身の力で傷口を縛る。
そうして応急処置をしていると、不意に背後からジトリとした気配を感じ。
振り向くと、学生会館の穴から、のそりと金目がその姿を現した。
「――」
ゾワリと鳥肌が立つ。
金目は、体の右側の肩口から先が失われている。
両の刃は失われた、翼も片方しかない。体の断面からはポロポロと煤のような何かが溢れ出しており、目の光は弱々しい。
死にかけている。
そのはずなのに、それでも尚、その怪物は圧倒的な存在感を放つ。
金目は目の前の二人の敵に視線を投げ、壊れたロボットのようにカタリカタリと歩みを開始した。




