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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
68/73

呪いの中身5

白亜は疾走を開始する。

金目までの約十メートルの距離を一足飛びに詰め、銀の刃を薙ぐ。

両者の間に剣戟が飛び交い、火花が散る。

金目は翼を広げ、大きく後ろに飛び退いた。その軌跡上に氷の槍を連続で作り出し、白亜へと雨のように降らせた。


白亜はその雨に逆らって跳躍して追う。

襲いかかる槍の雨を全て叩き落しながら、少しも勢いを緩めることなく空中の金目に肉薄する。

金目を刀の射程に入れ、即、斬撃を繰り出す。横薙ぎの一閃を金目は右刃で受け止めるがその勢いを殺し切ることはできず、横殴りに吹き飛んだ。


白亜は一度着地し、さらに跳躍して追撃を仕掛ける。

金目は吹き飛びながら空気を切る。裂かれた空気から這い出すように巨大な氷の礫が現れ、白亜を襲う。


「ふ――っ!」


白亜は即座に斬撃を走らせる。巨大な氷の礫は真っ二つに両断され、轟音を伴って地面へと落ちた。


しかしそれはただの目眩まし。

礫の影に紛れ本命の槍が――金目の突撃槍が白亜の体に風穴を穿つ。


そのはずだった。

刀を振り切った白亜の体は無防備そのもの。

返す刀は間に合わない。

だから白亜は、その金目の突撃槍の足を、あろうことか鷲掴みにして捕らえた。


「うああああああああああっ!」


叫びと共に金目を振り回すように空中で身を翻し、白亜は地表へと金目を投げ飛ばした。

先に落ちた氷塊を粉砕し、轟音と共に金目は地面にクレーターを穿つ。

舞い上がる氷の塵の向こうで立ち上がろうとする怪物を見据える。そこへ向かって落下しながら、白亜は刀を逆手に持ち替える。


立ち上がる前にトドメを刺す。

そう思った矢先、損傷した肺から血が逆流し、口から溢れた。

その一瞬の隙をつくように、地面から無数の氷柱が発生する。氷柱はさらに無数に枝分かれし、数えることもできないほどの氷の刺が全方位から白亜を包囲した。


それはまるで、氷の茨。

白亜は血を拭って舌打ちする。その呼気が白く染まった。

ギチギチと嫌な音を立てながら、白亜を中心に茨は一気に収束する。

白亜はふと息を止め、全方位から襲いくる茨を体を回転させて打ち払う。金目はその間隙に飛翔し、白亜へ斬りかかる。

その首を狙った斬撃を刀で受けとめるが、金目の推力に押されて白亜の体はぐんぐん上空へと運ばれ、高度はあっという間に百メートル、二百メートルへと至り、三百メートルをも悠に超えた。


金目は刀を弾き、白亜の真上で制止した。


二人の視線が交差する。


金目の翼が、まるで天を覆うほどに大きく開く。


ふと、その姿が掻き消える。


瞬間、その音速の刃が白亜へと叩きつけられた。


「――っ!」


空中では踏ん張りがきかない。

白亜は吹き飛ばされないよう、渾身の腕力だけでそれに抵抗する。


金目は尚も飛翔し、絶え間なくありとあらゆる方向から、超高速で白亜へと襲いかかる。さらに、その軌道から氷の槍を生み出し、白亜へと発射する。


圧倒的に手数で敗北している。

全方位からの音速の斬撃に加え、それに匹敵する速度で襲いかかる無数の槍。対する白亜の武装は刀の一振り。おまけに白亜は自由の利かない空中で自由落下している。どちらが不利かなど考えるまでもない。


しかし、それを理解しきっていてなお、白亜は一つも動じない。


肉体の限界が近い。

骨も内臓も損傷しているこの体では長時間の戦闘は不可能。

白亜は金目の波状攻撃を捌きながら、タイミングを計る。


絶え間なく襲いかかる氷の槍を捌きながら、全神経を集中させてその瞬間を待つ。

打ち払った槍の影から、戦闘機の如く真正面から突進してくる黒い影をその目に見る。


「捉えた……!」


もう氷の槍は無視する。強化された肉体に守られるに任せ、刀を握り締める。

槍が体に突き刺さる感覚がある。貫通こそしないが、刺さった箇所から体が凍りついていき、体温が失われていった。


――知ったことか。


金目の刃が迫る。

白亜は閃光のように刀を振り上げ、そして振り下ろした。


刀は金目の残った右の刃を両断し、右側頭部を切り落とし、さらに右の肩口に刃を食い込ませた。


金目の目が強く瞬き、傷口から黒い煤が噴き出した。


さらに刀を食い込ませようと力を込める。しかし氷が腕にまで至り、それ以上刀が進まない。金目も体を凍結させ、それ以上の刀の進行を阻む。


白亜は瞳孔の開ききった瞳をさらに見開き、声もなく叫ぶ。

白亜と金目の体は絡み合いながら地表へと落下していく。

金目の体から漏れ出す漆黒の煤が、白亜の鮮血が、雲一つない夏空に線を引いて散っていった。


白亜の体を氷が侵食する。

食い込む刃は金目の命を散らしていく。


金目はひび割れたような音を、まるで悲鳴のように放つ。

地表が近づく。もう目と鼻の先だ。残り数メートルの高さに至ったそのとき、白亜は刀から手を離し、その刃に踵を落とした。


それが最後の決定打となり、刃は金目の右半身を切り落とした。切断された金目の片割れが爆発するように黒い煤を噴き出し、それによって落下の軌道が横へと変わり、白亜は地面を転がった。

反対側に吹き飛んだ金目はどこかの建物の壁に激突し、その中へと叩き込まれた。


白亜の体から漏れ出ていた銀の光が霧散する。

髪の毛は元の色と長さに戻る。

白亜はピクリとも動くことなく、そのまま意識を失った。

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