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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
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呪いの中身4

朦朧とする意識の中、白亜は道隆が惨たらしく殺されるのを見た。

道隆が金目化への新しいフェーズに足を踏み入れたのも分かった。そしてその力を当たり前のように躊躇いなく使う姿も見ていた。


呪いの力は、使えば使うほどにその力が精神を侵食し、有していて当然のものであり、使って当然のものと思うようになっていく。そこに至れば、金目に堕ちることは避けられない。


道隆は、間違いなくその領域に足を踏み入れかけている。


道隆が金目に吹き飛ばされ、激しい崩落音が響いた。

金目は瀕死の白亜には目もくれず道隆を追いかけていく。


白亜は渾身の力を込め、俯せに体を回転させた。

道隆が落としてしまったらしい銀の杭が落ちているのが目に入った。これで、道隆は完全なる丸腰である。


急がなくてはと、白亜は途切れそうな意識を掻き集めて杭の方へと這っていく。


この状況を逆転する方法が、まだ一つ残されている。

しかしそれは多大なる犠牲を払う必要がある方法だ。

恐怖がないわけではなかったが、しかし迷いなく白亜は即断する。


――金目なんかにさせてたまるものか。


突如、目の前が真っ暗になり、地面に伏した。ドロリとした血が口からも鼻からも溢れ出す。白亜が這った後には、血の航跡が残った。

白亜は顔を上げ、さらに体を動かした。


――だってあの人は私の大切な……。


白亜の力は、肉体と運動能力の純粋な強化である。しかし、その力にも、呪いの力と同様にリスクが存在する。


白亜の力は、己の寿命を代償にしてはじめて得ることができる。


それが白亜が授かった祝福の――あるいは呪いの正体だ。


金目は研究棟の壁を突き破り、講義棟の上空へ飛翔した。

金目の周囲の空気が瞬間的に凍りつき、無数の氷の槍が生成される。それが講義棟に降り注ぎ、瞬く間にその姿を失わせていく。


もはや天災だ。


しかも、あれでまだ本気を出しているようには見受けられない。力の底が、まったく見えない。あれに対抗するには一年、いや五年――それでもまだ足りない。


「……十年……だ」


白亜は杭を掴み、強く、さらに強く握り締める。

今にも泣き出しそうな表情のまま、ぐっと怖気つきそうな自分を必死に噛み殺す。


至る所の骨が損傷している。

内臓にもダメージがいっている。

血も足りない。

関係ないと、白亜は立ち上がる。


銀の杭で空気を切ると、それはたちまち刀へと姿を変える。体を満たす力が溢れるように、体は薄く銀の光を放ち始める。肩までしかなかった髪が、急激に腰に届くまでに伸び、銀色に染まった。


更地と化した、講義棟のあった場所へと目を向ける。

道隆は倒れたままピクリとも動かない。そんな道隆へ、金目は刃を振り上げる。


「これ以上――」


――その人を傷つけることは許さない。


そう血に塗れた口内で叫び、白亜は跳躍する。

まるで時間さえも凌駕するような速度の中、すれ違いざまに金目の振り下ろす刃を道隆に届くより前に切り落とした。


金目は不思議そうに失われた自身の左腕を持ち上げる。まだ白亜に気づく様子はない。

白亜は急に伸びた髪が鬱陶しくなり、ボロボロになったスカートの裾を切り取り、その切れ端を使って後ろで髪を縛った。


金目はようやく、白亜の方へと顔を向けた。

白亜は一度だけ大きく瞬きをする。


一度だけ、白亜は兄の剣道の試合を見に行ったことがある。そのとき、兄は上段の構えを使っていた。しかし、その兄の戦闘技術を継承したはずの白亜の体は、構えようとしない。両手でだらりと緩く握ったのみで、刀の切っ先は地面に向いている。


金目は白亜を見つめたまま動かない。

白亜も金目を見つめたまま動かない。


金目が何を考えているのかは分からない。しかし、突如として目の前に現れた敵が油断ならないということだけは理解できたようである。もう、道隆には見向きもしない。


「白亜ちゃん……なのか……?」


倒れたまま、道隆は白亜に顔を向ける。

白亜は頷き、そしてこれまで見せたどんな笑みよりも柔らかな笑みを向けた。


「そこで休まれていてください、綾瀬さん。後は、私が」


言い終わるより前に、金目は白亜へと襲いかかった。白亜は金目の刃を受け止めるが、足はゴリゴリと地面を削った。

白亜は刀を薙ぐと、金目はふよふよと浮遊して白亜との距離を開く。


白亜はすぐに金目と道隆の間に立った。


金目は白亜から五メートルほど離れた場所に着地した。

その周囲に冷気が集い、そして一気に突風と共に全方位へと広がる。地面がバキバキと凍結していき、それに触れたものも全てが瞬く間に凍結する。

研究棟も、連絡通路も、瓦礫も、大気でさえも凍りついていく。


その速度は音速。

常人には逃げることはおろか見ることすらできない、人間の性能を遥かに凌駕する絶対不可避の攻撃。


しかしその中で、白亜は風が自身に届くより先に刀を振り上げる。氷の速度が(マッハ)であるならば、刀の速度は(シー)である。


絶対不可避の音速は、今の白亜の前には遅すぎた。


振り下ろされた光速の刃は、あらゆるものを凍結させる冷気を両断する。白亜を境界に、氷の大地は切り払われた。

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