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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
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呪いの中身2

右手に握り込んだ銀の杭は、黒い翼を持つ強力な金目ですらも殺すことができる武器だ。目の前の災厄の権化のような怪物にもきっと通用するだろう。

それはつまり、健太郎を殺すということだ。


できるのかと、自問する。

やらなければと、自答した。


目の前の災厄は、健太郎とは別物だ。元の健太郎に戻るなど不可能だと、その全存在が語っている。


道隆は膝を曲げ、目を見開く。

策など何もない。あるとすれば以前と同じ、死を前提にした特攻のみ。

道隆はただ真っ直ぐに突進を開始する。


その、僅か一歩目。


道隆の首と胴体は泣き別れとなった。

一瞬の浮遊感を経て、道隆の体はロールバックする。

金目はいつの間にか道隆と目と鼻の先にいた。

道隆が杭を振りかぶるまでに、さらに金目は道隆を左の肩口から腰にかけて袈裟懸けに両断する。


復帰し、金目の胸を狙って、杭を突き出す。


その道隆の腕は、しかし地面から伸びた氷が凍結させて縫い留め、動きを封じた。


「っ!」


凍った箇所が焼けるように痛み、苦悶の表情を浮かべる。

金目は動きを封じられた道隆の周りを観察するように動き始めた。

何かしらないが、油断しているようなので体をねじり、左手を銀の杭へと伸ばす。しかし、瞬時に左腕も氷で縫い留められた。


金目は道隆の正面に戻ると、まるで子供のように小首を傾げる。それからその槍の足で地面を叩く。道隆の足元から氷が這い上がり、道隆の全身は分厚い氷に包まれた。


何、と思う間もなかった。

氷の向こう側で金目が両の刃を持ち上げる姿を見る。

禍々しい二つのブレードが陽の光を浴びてキラリと光る。

その光景を最後に、数秒間、道隆の意識は途絶えた。


気付いたときには宙に投げ出されており、直後地面に叩きつけられた。衝撃に息を詰まらせながらも急いで立ち上がる。

金目の周りには、塵となった氷が散乱していた。きらきらと輝くその光景を見て、自分がどのような末路を辿ったのかを想像してしまい、戦慄する。この一瞬で、一体どれだけ殺されたのか。


ふと、奇妙な感覚を覚えた。


金目は起き上がった道隆へと、唐竹割りに刃を振るう。


道隆は、横に一歩動いてその刃をいなし、すぐ耳元で空気の割れる音が聞く。


直後、道隆は身を低くかがめた。すぐ頭上を金目の刃が通過した。道隆は身を起こしながら、金目の胸を目掛けて杭を突き出す。


金目はそれを軽く弾いて、二歩ほど後退した。


道隆は自身の両手を見下ろし、次に両目を覆うように両手を押し当てた。


手に閉ざされて暗くなった視界の中で、チラチラと黄金の星が舞っている。


――何が……。


体が軽い。

自分の体ではないように、体が動いた。

金目の刃がどう振るわれるのかが、その目には見えた。


自身を死に至らしめる事象がどこからどう来るのか、数拍前に手に取るように分かったのだ。


道隆の呪いは、死を過去にしてしまうものと言える。しかしこの現象は、言わば死を未来に視るものだ。


呪いの力を使いすぎると金目と化すと白亜は言った。

ではこれは、力を使いすぎた――死にすぎたことによって金目に近付いた証左なのではないか。


――関係ない。


道隆はその考えを振り払う。


――今はただ、使えるものは何でも使うまでだ。


そうしなければ白亜も、道隆自身も助からない。


道隆はもう一度銀の杭を構え直す。

ふうと深く息を吐くと、視界がクリアになっていく。そこでようやく見慣れた建物が目に入り、自分がいつの間にか大学の構内にいることに気が付いた。


金目は興味深そうに道隆に視線を投げかける。実際にどう考えているのかは分からない。しかしどこか――楽しそうに見える。

まるで、どれだけ乱暴に扱っても壊れないおもちゃを見つけた子供のように。


――来る!


道隆は袈裟懸けに振るわれた刃を潜り抜けるようにかわす。

足元から這い上がるような冷気を視覚で補足し、凍らせれるより先に銀の杭で打ち払う。その流れで金目の足へ杭を走らせ――


「――っ!」


自身の喉を裂かれる光景を幻視し、攻撃から回避へと転換する。金目の刃は道隆の首を裂くにとどまり、道隆は後ろへ飛んで一度距離を開けた。


裂かれた首に触れると、指が真っ赤に染まった。あとほんの一瞬でも回避行動が遅れていれば頸動脈にまで至っていたことを自覚する。失血死はまずい。下手をすると、死の無限ループに陥ってしまうからだ。


金目は楽しそうに肩を揺らした。


憎たらしいと、道隆は唾を吐く。


死が来る未来が視えたところで、道隆の肉体も身体能力も常人だ。白亜を圧倒する怪物を相手とまともに戦うことなどできるはずがない。それができているのはひとえに、遊ばれているからだ。


殺しても死なないから、どうしたら死ぬのかな。

思わぬ反撃をしてきた、どこまで耐えられるかな。


まるで虫をいたぶる子供のように、金目は遊んでいるとしか道隆には思えなかった。


――だから、倒せるとしたら今しかチャンスはない。


百メートルを超える距離を一瞬で詰めたあの速度、健太郎がしてみせたような氷の力による大規模な破壊、それらをやられれば、もはや打つ手はない。


道隆は、さらに強く杭を握り締める。

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