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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
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氷の心、正義の槌 了

道隆と白亜と別れて、健太郎は一人歩く。


明るく振る舞ってはみたものの、恐怖心は拭えない。


人を二人も、悪魔のような残酷な方法で殺害した。


そのときの記憶は生々しく残っている。


良心の呵責などなかった。


そうするのが当然と思った。


そうされて当然と思った。


井田を追っているときもそうだ。


駆除すべき――殺さなければと心の底から信じた。


それが罪であることなど少しも考えなかった。


思い出すだけで震えがくる。


そんな悪魔のような思考を自分がしていたとは。


はあとため息を落とした。


弁護士になりたかった。


こまっている弱い人たちを助けるヒーローに憧れた。


しかし、それはもう叶わぬ夢だ。


前科者は弁護士にはなれない。


人殺しがヒーローだなんてお笑いにもならない。


総司にも申し訳ない。


守りたかったあの映画もお蔵入りだろうか。


涙が溢れた。


結局、何も成すことができなかった。


何者にもなれなかった。


何一つ意味などなかった。


落ちた涙は焼けたアスファルトに一瞬で蒸発した。


嘆いたところで仕方がない。


自分が蒔いた種だ。


自分以外の誰も責任を取ってくれはしない。


公園が見えてきた。


どこかの路地で現実に帰ろう。


そして警察にこの身を委ねよう。


ふと、部室に返そうと思っていた番傘のことを思い出す。


最後に道隆にそのことをお願いしよう。


そう思い、健太郎は振り返った。


「――え」


そこに、靄のかかったような人型があった。


「何ともつまらぬ幕引きだ。まさかこのよう茶番で幕を引こうとは」


「――エイゼン」


靄の向こうで、何かがニタリと笑う気配を感じた。


「私の名前を覚えていたか。有望だったというのに……残念だ」


「お前が……お前が俺を……操っていたのか?」


「操るとは心外だ。私はお前にきっかけを与えたに過ぎない。選択したのはお前自身だ」


「ふざけるな! 俺は人殺しなんかしたくなかった!」


「ならば良い教訓を得たな。頭と心は別物だ。思い通りには動かぬと。存分に来世で活かすといい」


「来世……?」


エイゼンの手が健太郎の肩に置かれた。


瞬間、


目の前が黄金の輝きに満ち溢れた。


「お前の正義は愉快であった。お前の氷の槌は痛快であった。それを失くすは惜しい。だから尾辻健太郎、私はお前に、再び祝福を授けよう」


置かれた肩から、何かが流し込まれる感覚があった。それが良くないものであること、自分とは相容れないものであると直感できた。なのに、抵抗できない。指先一つ、ピクリとすら動かすことができない。


心臓が凍結し、鼓動が止まる。


健太郎は目を見開いた。


「あ――」


「心のままに、本懐を果たすがいい」


脳裏に、救いたかった人物の顔が浮かぶ。

  

「心のままに、なりたいものになるがいい」


脳裏に、子供の頃に憧れたヒーローが浮かぶ。


「全てを許そう尾辻健太郎。お前のその滑稽な願望で――この私を興じさせよ」


それら全てが頭の中から掻き消える。

健太郎は絶叫した。

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