vs 氷の心、正義の槌3
白亜は全力で地面を蹴った。
降り注ぐ氷塊にも、身を焼くような冷気も無視し、一気に健太郎に肉薄する。降り注ぐ氷の中で、健太郎は氷のドームの中で身を守っている。
「行かせるか――!」
白亜は跳躍するとその氷のドームに杭を突き立てる。呪いの力で形成されたその氷は、刺された箇所からヒビ割れ、砕けた。
健太郎は目を丸くし、再度自分の身を守る氷を作る。白亜はそれも構わずに切り捨て、氷の注ぐ範囲の外まで健太郎を引きずり出した。
地面に引き倒した健太郎へ、杭を振りかざす。
健太郎は薄く笑みを浮かべる。地面から氷が飛び出し、白亜の杭を持つ手を捕らえた。
次いで、反対側の手にも氷の魔手が伸びるが、白亜は杭を左手に持ち替えてそれを払い、拘束された手も解放する。
その隙に健太郎は立ち上がり、白亜と距離を開けた。
「おっかないなあ奥村さんは。そんなもので刺されたら痛いじゃすまないっスよ」
「異界から出ようとされましたね?」白亜は健太郎の軽口を無視して言った。「二つの世界を行き来するにはそれなりに集中する時間が必要です。私を前にして、そんな余裕があると思いますか?」
「本当、おっかないなあ」健太郎は笑みを消す。「奥村さんも道隆先輩も、どうしてそうまでしてあの害虫を守ろうとするんですか? 理解に苦しむな。あれ一人を駆除すれば、もうこの力は使わないって道隆先輩にも言ったのに、何が不満なんです?」
「理解に苦しむということが問題なんですよ。井田を処分できた後に、またあなたの前に新しい悪党が現れたとき、あなたは何もせずにいられますか?」
「それは……」
「できないでしょう? あなたの頭はそういうふうに――正義感というものを極端に捻じ曲げられている。洗脳されているのと同じですよ。だから、私たちは何が何でもここであなたを止めないといけない」
「洗脳? 俺が? 誰に?」
「あなたに力を与えた何者かだと私は踏んでいます」
「は」健太郎はまるで嘲るような笑みを浮かべた。「それはないスね。あの人は俺の言い分を全てを肯定してくれたんスよ。あの人は――あのお方は、俺の神様っスよ」
あのお方。金目が言っていた呼称と同じもの。
先ほどの大破壊が引き金だったのか、健太郎の思考がかなり金目に寄ってきている。もう猶予は残されていない。
道隆のことを思い出す。あのときのような無様はもう晒すものかと覚悟を決める。何が何でも止めなければ、健太郎は破滅する。
白亜は声を潜め、傍らのプテラノドンに尋ねる。
「猶予はどれくらい?」
「俺は当てに出来ないんじゃなかったのかよ?」
「軽口はいいから、早く答えて」
はいはいとプテラノドンは一拍だけ間を置いた。
「あの力の規模と躊躇いのなさから、第2フェーズはとっくに過ぎてるみてえだな」プテラノドンは酷薄に続ける。「やるんなら急ぐこった。あの規模で力を使い続けてりゃ、ご破算は目の前だぞ」
白亜はトートバッグを肩から下ろし、用済みと言わんばかりに近くの建物の中へと投げ捨てる。それでもしっかりプテラノドンのぬいぐるみはトートバッグを下にして着地した。
「最後にもう一度だけ、私からお願いです。尾辻さん、あの男は諦めてください。そして、そんな力は二度と使わず、平穏な生活に戻ってください」
「できないっすね」
「そうですか。そうでしょうね。でしたら」白亜は健太郎を睨む。「せめて抵抗はしないでください」
「それこそ、無理な相談ってなものでしょう。奥村さんこそ、諦めた方がいいっスよ。だって」
俺の方が強いからと、健太郎は地面を大きく踏みつけた。そこから地面が薄く凍結し、白亜の足元に迫る。
白亜はすぐさま跳躍し、近くの横断歩道の信号機の上に飛び乗った。
しかし氷は侵食するように信号機をも凍らせ、その柱を折る。
白亜はさらに跳躍し、空中で身を翻してビルの壁に足をつける。その一瞬で足に血液を集中させ、炸裂するように健太郎を目掛けてコンクリートの壁を蹴る。
「うお! 忍者みてえ!」
言いながら、健太郎は右手を下から上へと振るう。それに連動するように、巨大な氷の壁が白亜の進路を阻んだ。
「――っ」
小さく舌打ちし、その壁を杭で突き刺した。氷壁は崩れ去ったが、それで白亜は推力を失い、地面に着地する。
その白亜の足へと、さらに氷が迫る。
白亜は大きく飛び退いてそれから逃れた。
――デタラメだ。
威力、範囲、応用性、その全てが桁外れ。健太郎は当初から一歩も動いていないのに、白亜はすでに息が上がっている。
健太郎の言う通り、単純な力だけで言えば白亜の完敗だ。それにその使いこなし方も、最近力に目覚めたばかりだとはとても思えない。
厄介だなと、白亜は独りごちる。




