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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
58/73

vs 氷の心、正義の槌3

白亜は全力で地面を蹴った。

降り注ぐ氷塊にも、身を焼くような冷気も無視し、一気に健太郎に肉薄する。降り注ぐ氷の中で、健太郎は氷のドームの中で身を守っている。


「行かせるか――!」


白亜は跳躍するとその氷のドームに杭を突き立てる。呪いの力で形成されたその氷は、刺された箇所からヒビ割れ、砕けた。

健太郎は目を丸くし、再度自分の身を守る氷を作る。白亜はそれも構わずに切り捨て、氷の注ぐ範囲の外まで健太郎を引きずり出した。


地面に引き倒した健太郎へ、杭を振りかざす。

健太郎は薄く笑みを浮かべる。地面から氷が飛び出し、白亜の杭を持つ手を捕らえた。

次いで、反対側の手にも氷の魔手が伸びるが、白亜は杭を左手に持ち替えてそれを払い、拘束された手も解放する。

その隙に健太郎は立ち上がり、白亜と距離を開けた。


「おっかないなあ奥村さんは。そんなもので刺されたら痛いじゃすまないっスよ」


「異界から出ようとされましたね?」白亜は健太郎の軽口を無視して言った。「二つの世界を行き来するにはそれなりに集中する時間が必要です。私を前にして、そんな余裕があると思いますか?」


「本当、おっかないなあ」健太郎は笑みを消す。「奥村さんも道隆先輩も、どうしてそうまでしてあの害虫を守ろうとするんですか? 理解に苦しむな。あれ一人を駆除すれば、もうこの力は使わないって道隆先輩にも言ったのに、何が不満なんです?」


「理解に苦しむということが問題なんですよ。井田を処分できた後に、またあなたの前に新しい悪党が現れたとき、あなたは何もせずにいられますか?」


「それは……」


「できないでしょう? あなたの頭はそういうふうに――正義感というものを極端に捻じ曲げられている。洗脳されているのと同じですよ。だから、私たちは何が何でもここであなたを止めないといけない」


「洗脳? 俺が? 誰に?」


「あなたに力を与えた何者かだと私は踏んでいます」


「は」健太郎はまるで嘲るような笑みを浮かべた。「それはないスね。あの人は俺の言い分を全てを肯定してくれたんスよ。あの人は――()()()()は、俺の神様っスよ」


あのお方。金目が言っていた呼称と同じもの。

先ほどの大破壊が引き金だったのか、健太郎の思考がかなり金目に寄ってきている。もう猶予は残されていない。


道隆のことを思い出す。あのときのような無様はもう晒すものかと覚悟を決める。何が何でも止めなければ、健太郎は破滅する。


白亜は声を潜め、傍らのプテラノドンに尋ねる。


「猶予はどれくらい?」


「俺は当てに出来ないんじゃなかったのかよ?」


「軽口はいいから、早く答えて」


はいはいとプテラノドンは一拍だけ間を置いた。


「あの力の規模と躊躇いのなさから、()2()()()()()はとっくに過ぎてるみてえだな」プテラノドンは酷薄に続ける。「やるんなら急ぐこった。あの規模で力を使い続けてりゃ、ご破算は目の前だぞ」

 

白亜はトートバッグを肩から下ろし、用済みと言わんばかりに近くの建物の中へと投げ捨てる。それでもしっかりプテラノドンのぬいぐるみはトートバッグを下にして着地した。


「最後にもう一度だけ、私からお願いです。尾辻さん、あの男は諦めてください。そして、そんな力は二度と使わず、平穏な生活に戻ってください」


「できないっすね」


「そうですか。そうでしょうね。でしたら」白亜は健太郎を睨む。「せめて抵抗はしないでください」


「それこそ、無理な相談ってなものでしょう。奥村さんこそ、諦めた方がいいっスよ。だって」


俺の方が強いからと、健太郎は地面を大きく踏みつけた。そこから地面が薄く凍結し、白亜の足元に迫る。

白亜はすぐさま跳躍し、近くの横断歩道の信号機の上に飛び乗った。

しかし氷は侵食するように信号機をも凍らせ、その柱を折る。

白亜はさらに跳躍し、空中で身を翻してビルの壁に足をつける。その一瞬で足に血液を集中させ、炸裂するように健太郎を目掛けてコンクリートの壁を蹴る。


「うお! 忍者みてえ!」


言いながら、健太郎は右手を下から上へと振るう。それに連動するように、巨大な氷の壁が白亜の進路を阻んだ。


「――っ」


小さく舌打ちし、その壁を杭で突き刺した。氷壁は崩れ去ったが、それで白亜は推力を失い、地面に着地する。

その白亜の足へと、さらに氷が迫る。

白亜は大きく飛び退いてそれから逃れた。


――デタラメだ。


威力、範囲、応用性、その全てが桁外れ。健太郎は当初から一歩も動いていないのに、白亜はすでに息が上がっている。

健太郎の言う通り、単純な力だけで言えば白亜の完敗だ。それにその使いこなし方も、最近力に目覚めたばかりだとはとても思えない。


厄介だなと、白亜は独りごちる。

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