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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
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呪いの如き神の祝福

そのまま、二人は道路をまっすぐ歩き続けた。

今のところ金目と遭遇する気配はない。白亜は歩きながら「やっぱり」と呟いた。


「二日前、綾瀬さんと別れてから一度ここに来たんです」


「二日前って、僕には何も言わずに?」


それは契約違反ではないかと、道隆は眉をひそめる。


「すみません。その点は私の不義理です。謝罪します」白亜は律儀に一度足を止め、道隆に頭を下げてそう言い、頭を上げて続けた。「ですが、そこは一度横に置かせてください。私が言いたいのは、そのときもこうして金目が見つからなかったということなんです」


「金目が見つからなかった……って言われてもな」道隆は首を傾げる。「普通、金目はどのくらいいるものなんだ?」


「たくさんいますよ。大学の中で知り合いに遭遇するくらいの確率です」


よく分からない例えだった。そもそも、道隆の知り合いなど映画研究会の面々を除けば白亜くらいのものなので、その理屈でいけば物凄く低い確率だ。考えると何だか悲しくなった。


「まだ肝心なことを聞けてなかったけど、白亜ちゃんはどうして金目を倒して回ってるんだ?」


白亜はチラと道隆の顔を一瞥すると、また足早に歩き始めた。


「実のところ、金目を倒すことを目的としてはいません。ある特性を持った金目を探していて、その過程で襲われるので倒さざるをえないだけで」


白亜は交差点を右に曲がる。高級料亭が立ち並ぶ通りに出て、誰もいないというのに道隆は緊張した。


「ある特性って?」


「意思疎通ができる金目です」


簡潔なその返答に、道隆は困惑する。


「そんなのがいるのか?」


道隆がこれまでに遭遇した二体の金目。一つは知性など感じられない獣で、もう一つは生体兵器のような化け物だった。どちらも、およそ知性らしきものは微塵も感じられなかった。


「金目の能力は多種多様です。意思疎通できる金目だって、いてもおかしくはありません。それに」白亜は一拍置いて続けた。「二日前、私は喋る金目と遭遇しました」


「喋る? あれが?」


「ええ、まさにこの近くで。会話ができるほどの知性はないようでしたが、確かに人間の言葉を話していました。喋る金目がいるのなら会話できる金目がいたっておかしくはないはずです。会話ができれば、兄さんの事件のことが何か分かるかもしれません」


喋る金目がいるなら会話できる金目とていて然るべきだ。それから二年前の事件の情報を収集する。理には適っているが、森の中で一枚の木の葉を探すような、途方もない作業である。そんなことは白亜とて分かっているはずだ。


――そんなことを、たったの一人で、一年間も。


白亜の言葉の裏にある静かな覚悟に、道隆は圧倒される。そのために彼女がどれだけの犠牲を払ってきたのか、想像できるものではないし、容易く想像していいものとも思えなかった。


白亜が焦っているように見えたのも合点がいくというものだ。白亜にとって、喋る金目は、目的のものでこそなかったが希望を抱かせるには十分な変革である。


道隆は白亜の持つ武器を一瞥する。プテラノドンが何者かは分からないが、これを渡されたことで彼女の運命は決定的に変わってしまったのではないか。それが仮に地球乃の意思なのだとしたら、一体彼は何のために自らの妹にそのような苦行を強いたのか。

プテラノドンはその力を神の祝福と称した。しかし、こんなものは呪いと何ら変わらない。


――考えても仕方がない。


逝ってしまった男の考えなど、どんな手を使っても今更知ることのできるものではない。


「他に、何か質問はありますか?」


「……それじゃあもう一つ」道隆はもう一度、白亜の武器に目を落とした。「君の力のことを、プテラノドンは神の祝福とかって言ってたよな。君の力って、そもそも何なんだ?」


「祝福か……」白亜はどこか自嘲するように呟く。「その言葉の意味は、私にも分かりません。ただ、使い続けることで世界の法則から弾き出される呪いとはまったく違うもの……だそうです」


白亜はトートバッグのプテラノドンに触れる。どうやらそれが言ったことのようだ。


「力の内容はシンプルです。金目を倒すことのできるこの武器と、身体能力の大幅な向上と、肉体が頑丈になります」


「それはまあ……嫌という程この目で見たな」


白亜が道隆を追い詰めたときの超人染みた運動能力を思い出す。あのときの白亜は、おそらくあらゆる陸上競技のワールドレコードを容易く塗り替えるほどの力を持っていた。


「最後にもう一つ。私は多分、兄さんの手続き記憶を持っています」


「記憶……?」


「手続き記憶とは何かご存知ですか?」


道隆は首を振る。言葉として聞いたことはあった気がするが、詳しくは知らなかった。


「簡単に言ってしまえば、手続き記憶とはその人が習得した技能の記憶です。自転車の乗り方なんかが、よくこの例として挙げられますね。私がこの力を使いこなすことができるのは、この記憶によるものが最も大きいです」


「……でも、それはあいつの記憶という保証なんかないんじゃないか?」


いいえと白亜は否定し、プテラノドンを握りしめる。彼女は兄のことを思い出すときに、無意識にプテラノドンに触れる癖があることに、道隆は気が付いた。


「自分の体で動いてみると、細かな所に兄さんの所作を感じるんです。……言葉にしてみると、ちょっと気持ち悪いですね」


自虐的にそう言う白亜に、そんなことはないと道隆は即座に否定する。長年、二人だけで暮らしてきたような兄妹だ。だからこそ分かることもあるのだろう。


「――となると、あいつが金目と戦っていたってことは、もう確定だな」


金目を倒す武器。

人間の限界を超えた身体能力とそれを扱える肉体。

それらを使いこなすための記憶。


白亜が与えられたというそれの出どころが地球乃である以上、その点にはもう議論の余地がない。

地球乃が冤罪だと白亜が考えるのも無理はない。最初は彼女が言った通り感情論だったのだろう。しかし、これだけの状況証拠が揃えば、その考えが確信に変わるのは当然のことだ。


道隆は、ようやく白亜のことを理解できた気がした。


「止まってください」


突如、白亜は足を止め、制止するよう道隆の前に手をかざす。前を見ると、一体の異形がいた。


「金目……?」


白亜は小さく頷く。

最初に見た猿面の金目によく似ていたが、サイズはあれよりも遥かに小さい。とんでもない怪物を一度目にしたためか、それへの恐怖心はそれほど沸かなかった。

しかし、そんな余裕は次の瞬間に剥ぎ取られた。

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