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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
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猟奇殺人

翌日、病室に轟木という初老の男性と、中村という若い二人組の男性警察官がやってきた。

彼らも仕事なので気の毒には思ったが、本当のことをぶちまけるわけにはいかないので、道隆は壊れたレコードのように「何も覚えていません」と同じ言葉をひたすら繰り返すのみだった。二人は大いに困惑した様子だった。


警察官と会話していて確信したことがある。

分かってやったことだが、現実ではガソリンスタンドは爆発などしていないし、正体不明の怪物が街を破壊したりなどしていないということだ。道隆の怪我について、そこに言及する言葉が一つもないことからも、それは明らかだ。もしあれらが現実でも起こっていたら、今頃道隆はテロリストである。


事情聴取を終えた後、二人の警察官が病室を去ろうとしたとき、初老の警察官、轟木がふと思いついたように尋ねた。


「三日前に、近くで男性の遺体が見つかったんだけど、知ってる?」


突然の質問を怪訝に思いつつ、道隆は「知りません」と答えた。三日前と言えばまだ気を失っていたときである。


「状況が君と似ている気がするんだよ」轟木はどこか疑るような視線を道隆に向ける。「その遺体にも、異常な外傷があってね」


「はあ……」本気で覚えのないことなので道隆は気のない返事をする。「僕と同じように、全身傷だらけ火傷まみれってことですか?」


「いいや、違う。むしろ逆だよ」


轟木は、相棒の若い男性、中村に目配せした。それを合図にしたように、中村が後を引き継ぐ。


「これはここだけの話にしてほしい」そう前置きして続けた。「その男の死体は、氷漬けにされた上で上半身が粉々に砕かれていた」


「……はい……?」


「おかげで身元も未だに判明しない。そこで同じような意味不明な外傷を負った人間が病院に運び込まれたと聞いてね。もう藁にもすがりたい思いで話を聞きに来てるんだ」


何か覚えはないかと中村は尋ねるが、まるきり覚えがないので道隆は否定するしかなかった。

凍って砕かれた男の遺体。分かりやすい猟奇殺人だ。そんなことが寝ていた間に起こっていたことに震えが来る。


「何も知らない、か」落胆したように轟木はこぼした。「病み上がりに押しかけて申し訳なかった。我々はこれで失礼するよ。お大事に」


礼儀正しくそう言って、二人は病室から出ていった。もっと威圧的に聞かれるのかと思いきや、終始穏やかだったので気落ちする。テンプレ的な先走る若者と諌めるベテランのバディを期待していたのである。


道隆はチラとベッドの横の棚を見やる。病院に運び込まれた時に持っていた私物がそこにまとめてあった。と言っても財布とスマートフォンくらいしかなかったが。


道隆は財布を手にし病室を出る。ナースステーションでコンビニの場所を聞き、一階に下りる。待合室の前を通り過ぎ、正面入口の横のコンビニに入って地方紙を購入して病室に戻った。警察官言っていた事件のことが気になったからである。


事件はかなりセンセーショナルに報道されているようだ。数日前の事件だが、全国紙でもそれなりに大きな枠を取っている。


要約するとこうである。

事件の現場は繁華街の路地裏。近隣の店舗の従業員が人のような氷塊を二つ発見。警察が駆けつけたところ、それは男性二人の遺体だった。

上半身が粉々になっていた、という辺りの記載はない。さすがに内容が内容なので、警察もそう簡単に発表できないのだろう。


それにしても凄まじい事件である。わざわざ凍らせて砕いて路地裏に打ち捨てたのだとしたら、およそ人間の所業ではない。


不可解であることはその通りだ。

そういった分野に道隆は明るくないが、人体を粉々にできるほどに凍結させるには、そこいらの冷凍庫などでは到底不可能だろう。水を氷にするのとはわけが違うはずだ。


そんなデタラメを実行した人間が、この近くにいる。

そう思うだけで動悸がするようだった。


とはいえ自分とは関わりのない事件である。早く捕まればいいなと思いつつ、道隆は新聞をテーブルに置き、ベッドに寝転がった。


この事件を引き起こした人間が極身近な人物であることを、道隆はまだ知らない。

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