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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第三章
27/73

白い部屋と黄色のガーベラ

四日間の昏睡状態を経て、道隆は意識を取り戻した。

全身に包帯が巻かれており、腕には点滴のチューブが繋がっている。清潔な白い天井や壁と、薬品のような臭いが、そこが病院であると教えてくれた。


窓からは明々と陽の光が差し込んでいる。日の質感と差し込む角度から、現在は午前中だなと意味もなく推理する。

窓の淵には陶器の花瓶に一輪の黄色いガーベラが飾られていた。


身動ぎしていると看護師がそのことに気が付き、程なくして若い医師が病室に入ってきた。


「全身の擦過傷と軽度の火傷、出血多量による貧血、脱水症と熱中症、酸欠、おまけに背中の傷が化膿しかけ……と」道隆を前に医師はカルテを読み上げ、半笑いで言った。「君はあれか? ゴビ砂漠の真ん中でモンゴリアンデスワームとでも戦ってきたのかな?」


道隆は曖昧に笑うだけで答えなかった。喉がガラガラで答えることができなかったのである。


「外傷の経過は問題なし。熱中症の影響もそんなにはなさそうだね。背中のケガも、まあいいだろう。これ、もう少し深ければ脊椎までいって立てなくなってたよ」


意識を取り戻したばかりの男にゾッとすることを言う医者である。患者への配慮というものをまだ知らないようだ。


「それと、警察が君に話を聞きたがっている。意識が戻れば連絡しろと言われてるんだけど、してもいいかな?」


しないという選択肢はないんだけどと医師は言う。これだけ全身傷だらけの男が担ぎ込まれればそうなるよなと、道隆は納得して頷いた。

そういえばと、道隆は体を起こそうと身悶えする。しかしすぐに医者は道隆の肩を持って制止する。


「無理はいけない。警察には連絡するが、話せるようになるのはまだ先だと言っておくよ」


道隆は首を振る。そんなことを聞きたいのではない。

医師は怪訝そうな顔で道隆を見たが、隣の看護師が何やら耳打ちし、ああと腑に落ちたように笑った。


「救急車を呼んだのは君の恋人かな? 彼女も怪我をしていたが、なあに、君に比べれば軽傷だよ。何の心配もいらない」


そうかと、道隆は安堵した。表情でそれが分かったのか、医師はやれやれと首を振る。


「若いって素晴らしいね」


「羽村先生、ジジ臭いです」


「そういうこと言うのやめてね」


軽妙な医師と看護師のやり取りで、本当に大したことはなかったのだろうことが読み取れた。安心すると眠気が戻ってきた。


「うん。今はまだ休んでるといい。この様子だと、明後日には退院できるだろう。いや、それにしても君ね」医師は少しだけ道隆に顔を寄せ、声を潜めた。「彼女を大事にしなよ。あんな良い子、この先絶対に見つからないぞ」


彼女ではないと言いたかったが、やはりうまく声にならなかった。

簡単な触診だけ済ませると、医師は「僕も毎日看病してくれる彼女が欲しかったなー」とぼやきながら病室から出ていった。変な医者である。


一人になった道隆はぼんやりと白い天井と、ポタポタと一定の間隔で落ちる点滴液を見つめる。操作していると、次第に意識が明瞭になってきた。


本当に無茶をしたものだと、今更ながら自分の行動に戦慄した。あのときは余計な事を考える余裕等なかったとはいえ、あのような無謀な突貫を敢行するとは。


自分自身の体がグシャリと潰れる間隔が、未だに皮膚に粘りついていて剥がれない。気色悪い、などという言葉では到底足りない。どんな言葉を重ねても、正確に言い表すことはできそうにない。


――そもそも、どうして僕は死なないんだ。


考えたくもなかったが、当然のその疑問に行き当たる。

死んだ瞬間に自分と自分の周りが死ぬ直前の状態に戻ってしまうという、あの現象。道隆の死をトリガーにする以上、道隆の固有の能力であることは疑いようがない。

だが、そんな能力に道隆は少しも覚えがない。死んだことがなかったので当然と言えば当然だが。


道隆は軽く吐息する。

考えたところで結論が出るわけでもなくうんざりした。


背中が痛み、横を向いた。

窓の縁のガーベラが見えた。

誰が持ってきたのだろうと、どうでもいことを考えていると、瞼が鉛のよう重たくなり、道隆はまた気絶するように眠りに落ちた。


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