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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第二章
23/73

弱者の戦い エクストラ

白亜は我が目を疑った。

目の前で繰り広げられている光景は、およそこの世のものだと思えなかった。否、実際に起きているものと信じたくなかったのだ。


凄まじい爆音と地鳴りで目を覚ますと、最初に感じたのは口中に広がる血の味と、それから全身に走る激痛だった。


意識を失う直前、異形の金目を見た。

無様にも感情の抑えが効かなくなり、隙を晒してしまった。思い出すだけで羞恥で消えてしまいたくなる。


受けた一撃を思い出す。

()を使っていた白亜ですら一撃で意識を刈り取られるほどの破壊力。常人が受ければまず跡形も残らない。これまで白亜が遭遇してきた金目の中でも、特に強力な個体だ。そんなものを残して意識を飛ばすとは。


「綾瀬さんは――」


辺りは惨憺たる有様だ。

地面もビルも塀も原型を留めていない。一体何をどうすればこんなことになるのか。まさかこれに巻き込まれたのでは。


いや違うと否定する。

道隆が死んだのなら、こんな状況にはならない。それに白亜が生きているのもそうである。状況だけ見れば、道隆が自らを囮にしたことは明白だ。あれはそういう人間だと、白亜は知っている。


――ではあれは。


遠くに見えるオレンジの明かり。舞い散る火の粉。爆音の爆心地はあれであることは考えるまでもない。

何がどうなっているのかと、白亜は破壊の痕跡を追って駆け出す。酷く体が痛んでうまく走れない。


よろめきながら走り、自宅マンションの通りに戻ると、凄まじい熱波で目を焼かれた。目を細めながら明かりの方に目を向けると、そこで我が目を疑う光景を見たのだ。


燃え盛るガソリンスタンド。

明々と照らされた崩壊した街並み。

ズタズタになった、異形の巨大な金目。

そしてそれに突進する道隆。


「あや――」 


声を投げるより前に道隆は金目の一撃に叩き潰され、白亜は小さく悲鳴を上げた。

白亜のいる場所までまだ五十メートルはある。それでもその衝撃と爆風は白亜の全身を骨の髄まで揺さぶった。周囲の崩壊しかけていた建物はそれで完全に倒壊した。


デタラメにも程がある。平時の白亜でも太刀打ちできるか分からないほどの化け物だ。


だが、白亜はさらなる衝撃に打ちのめされた。

金目の一撃を受けた道隆は無傷で立ち上がり、さらに金目に向かっていく。金目はそれをさらに叩き潰す。これを延々と繰り返し、道隆は金目に肉薄する。


常軌を逸している。

狂気の沙汰だ。


「なんてことを――いけません綾瀬さん!」


痛む肺を無視して枯れた声で叫ぶが、そのような頼りない声が届く距離ではない。

駆け出そうと足に力を入れた途端に電流のような痛みが走り、膝が折れる。こんな有様では到底間に合わない。


「いいところを見逃したな。あの大立ち回りを最初から見せてやりたかったぜ、奥村白亜! あの野郎、とんだ大馬鹿野郎だ!」


白亜のマンションの方から心底愉快そうな声がした。


「あの間抜け面完全にイカれてやがる! お前なんぞより何倍も見込みがあらあ!」


「黙ってて!」


白亜は泣きそうな、悲しそうな、不安そうな――色んな感情が入り混じった複雑な表情で、道隆と金目の攻防を前に、ただ立ち尽くすしかなかった。

道隆は跳躍すると銀の刃を金目に突き刺した。

金目はまるで断末魔のように黄金の光を激しくする。全身から噴き出す煤が火の粉に混じり、この世の終わりのような光景を作っていく。耳障りな音を鳴り響かせながら金目は倒れ、その瞳からは完全に光が失われた。


――倒した。


常人に金目を倒すことなど不可能だ。

それも、あのような異形の特殊個体。

にも関わらず、道隆は倒した。

それもたった一人で。


「嘘……」


白亜は呆然と絶命した金目と道隆を眺める。

灼熱に揺らめく二つの影の結末が、白亜の体も思考を麻痺させた。いつまで待っても、それが現実のものだと情報が帰結しない。


「呆けている場合か間抜け」そんな白亜に呆れたような言葉が投げられた。「あいつが動いてないのが見えねえのか? 俺は一向に構わねえが、このままだと本当に取り返しのつかねえことになるぞ」


声にハッとする。

金目の上の道隆は金目の上から動かない。微かに呼吸しているようには見えるが、意識を失っているのは考えるまでもない。


白亜は我に返り、血相を変え、灼熱に向かって頼りない足取りで走り出す。


「綾瀬さん……綾瀬さん……っ!」


――これ以上死んではいけない。


白亜は痛む体を引きずり、必死に金目の死体の元へと足を急がせる。


「でないと、あなたは――」

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