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アウスコトマ  作者: 屋形湊
第二章
19/73

弱者の戦い1

こんな巨体、一体どこから現れた。

音も気配もなかった。


――どうでもいい。


そんな些末事、今は考えるだけ煩わしい。


道隆は地面に突き刺さったままの白亜の武器を引き抜き、全力で地面を蹴り抜いた。

金目の足の長さは体の部分を悠に超えており、十メートルは下らない。道隆はそれが振り下ろされる前に、巨体の下でミミズのように蠢く足に狙いを定める。


刃物は、グニャリとゴムのような嫌な感触をかき分け、金目の足の一本に突き立った。


金目の体がビクリと痙攣し、巨大な目が白亜から道隆に向く。刃物を引き抜くと、傷口から黒い煤のようなものが噴き出した。それが全身に降りかかるが、道隆は少しも意に介さない。


天高く掲げられていた金目の足が、狙いを変える。そして、蝿でも叩くように振り下ろされた。


「――っ!」


途方もない衝撃が全身を揺らす。

足は道隆のすぐ横の地面に叩きつけられ、アスファルトは粉々に砕けて凄まじい土煙を巻き上げる。周りの地面は隆起し、道隆は立っていられない。


ただの、物理的な一撃だ。

しかしそれは、ほとんど兵器による一撃だった。

こんなものをまともに受ければ跡形も残らない。


「――ぅああっ!」


道隆はがむしゃらに金目の足を切りつけた。

その都度、傷からは煤が噴き出した。

金目は、ギギギと軋みながら、どこか不愉快そうに薄目を開く。

金目の体は、完全に道隆に向いた。


「そうだ……こっちに来い」


道隆は素早く周囲に視線を這わせる。そして、白亜から遠ざかる道を選定し、そちらへと足を向けた。


「相手してやるよ」


言葉が通じているとは思わない。それは自分を奮い立たせるための言葉だった。

白亜の武器を握りしめたまま、道隆は全速力で走り出した。

すぐに、金目は無数の足を蛇のように這わせ、道隆を追い始めた。

金目の足に飲まれた塀やビルの壁はたちまち粉々に粉砕される。動く粉砕機だ。だが、それが邪魔しているのか動きは遅い。


道隆は記憶を頼りに大きな通りへと飛び出し、辺りを素早く観察した。

近くにコンビニがある。その先には白亜のマンション。反対側にはファミレスが見えた。


――何か使えるものは……。


考えが定まるより前に、金目が追いついてくる。

ギチギチと嫌な金属音で、ギョロリと道隆を見る。あまりの悍ましさだが、道隆は怯まない、


――こいつは。


道隆は憎悪を込めた視線で金目を睨みつける。


――こいつだけは!


金目の足が、二本伸びる。道隆を挟み込むように、両側から同時に振るわれた。

道隆はすぐさま疾走し、ギリギリで背中を掠めるに留める。が、そこからドロリと出血する感触があった。


痛みに歯を食いしばる。

歯茎からも血が吹き出し、口の中に鉄の味が満ちる。

急いで振り返り、金目を視界に入れる。


金目は暴れ狂うように地面に足を叩きつけてアスファルトを剥がし、道隆へ向かって弾き飛ばした。衝撃でアスファルトは小粒に砕け、さながらそれは散弾銃と化した。


「――っ!」 


まったく予想していなかった攻撃に驚愕しながら道隆は地面へ伏せる。それでも完全に避けきることは不可能で、まるで掃かれるように散弾に地面を転がされる。その上を通過した散弾の本隊は、派手な音を立てて小さなアパートに激突し、ただの一撃で倒壊させた。


急いで立ち上がる。

そこにもう一度、距離を詰めていた金目は三本の足を同時に振り上げた。

ビルのように聳える三本の足を見上げ、金目に対してすかさず横に走る。


三本の足が――爆弾が、同時に落とされる。

道隆はまたもや寸前で攻撃範囲の外に出ることができたが、地面を破壊する爆風と衝撃で吹き飛ばされた。


道隆は咄嗟に体を丸くする。体は何かの店のガラスを突き破り、棚に激突してようやく止まった。

全身は切り傷まみれ、打撲まみれだ。至る所から出血しており、シャツはすでに真っ赤に染まっている。


防戦一方。いや、防戦どころか戦うこともできていない。店の外では、あの粉砕機のような蠢く足がこちらに向かって来ているのが見えた。早く動かなかれば、この建物ごと粉砕される。


体はボロボロだが、幸運なことにまだ動く。急いで立ち上がろうと手をつくと、指先に硬い感触があった。酒瓶である。周りには割れた酒瓶が散乱しており、アルコール特有の匂いが鼻を突いた。ここは酒屋のようだった。

道隆は僅かに思案し、目についたアルコール度数90%超えの酒瓶を片手に三本、指に挟んで持つ。


金目はもう目と鼻の先だ。

道隆は店の奥へと走り、裏口のドアを蹴破るように外に飛び出した。

その次の瞬間には怪物は酒屋だった場所を飲み込んだ。酒屋は三階建ての古いマンションの一階部分であり、支柱を失ったマンションは一気に崩落する。


金目は降り注ぐ瓦礫の下敷きになるが、すぐさま無数の足が周囲一帯を吹き飛ばして更地に変貌させる。

その一瞬の隙に、持って出た酒瓶のうちの一本を金目へと向かって投げつけた。

金目は避けようとも防ごうともせず、瓶はその巨大な目に衝突して割れ、その巨体を濡らす。

その様子を最後まで見もせず、道隆は全速力で表通りに戻ると近くのコンビニに飛び込み、ライターとシャツだけを手にしてすぐに外に出た。


白亜から借りている武器で酒瓶をこじ開け、破ったシャツを強引に詰め込んで逆さまにひっくり返す。中身がシャツに浸透するとすぐに火をつけた。


いわゆる火炎瓶である。


チリチリと熱が肌を焼く。

金目は道隆の手に現れた武器など意にも介さずに進んでくる。

距離は十メートルもない。


――この程度の距離であの巨体なら、目を瞑っていても当たる。


道隆はもう一度、槍投げのようなフォームで火炎瓶を投げつけた。火炎瓶は金目に当たると同時に砕け、先に浴びていた酒に着火し、黄金の目の上に一気に燃え広がった。

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