プロローグ
「俺はパンツを見たいのではない。スカートの中身を見たいのだ」
そう宣った友人が死んだ。
あらかじめ断っておくが彼は真人間であった。素晴らしき変態であったことは疑いようのない事実だが、多くの人がそうであるように、己の思想を実行に移すことなど考えもしない至極真っ当な人間だった。なので、彼が女性たちの怒りを買って嬲り殺しの憂き目に遭った、なんてことはないと彼の名誉のために断固として述べておく。
「スカートは不思議だ。実際に覗いてみない限り、履いてるのか、履いてないのか、はたまたスカートの中なんて空間が存在しているのかすらも分からないではないか」
美しい夕焼けのオレンジに染まった放課後の教室で、そんな最低なシュレディンガーの猫理論をぶち上げた彼の曇り一つない澄んだ眼を僕は未だに鮮明に思い出すことができる。
ややもすると、あれは志望校の合格判定が思わしくなかったらしい彼の一種の現実逃避だったのかもしれない。
彼はそんな馬鹿なことをまるで選挙前の政治家のように説き、男どもの爆笑と女性たちの白い視線を一線に浴びるのが常であった。クラスに一人はいそうな道化役者である。
そう、彼は思想こそ変態だったが、ただそれだけの道化だったのだ。
男子たちは言わずもがな、女子たちも彼を軽蔑の眼差しで見はするものの、本気で嫌っている人はいなかったように思う。
クラスの人気者だったと言っても過言ではない。
彼は、誰からも好かれていた。
みんな友達、という小学生の学級目標を実践しているような、誰にも優しく明るく接することのできる、超がつくほどの善良な変態だったのだ。
そう。だからこそ、誰も理解できなかった。
彼が、どうしてあんな事件を起こしてしまったのか。
何が、彼をあんな異常な行動に駆り立ててしまったのかを。
無機質なテレビの液晶に映し出された文字を見て悲哀を覚え、若いキャスターが真面目くさった表情で原稿を読み上げる声に、怒りなのか悲しみなのか判別できない複雑な感情が胸にわだかまる。
「二年前、社会に大きな衝撃を与えた同級生12人殺害事件で死刑が確定していた死刑囚奥村地球乃に対し、本日、死刑が執行されました」
現実感のないその報道を聞きながら、冗談のような名を持っていた友人へ向けて呟いた。
どうして、と。




