ジョーイ
僕の名は『ジョーイ』。
僕にはパパとママ、それから、同じ日に生まれた兄弟・ヒューイがいる。
これは、僕と大切な家族の物語。
会話と静かな描写で綴る、親子と兄弟の小さなおはなしです。
※セリフ形式ではなく、地の文で展開されます。
私はあなたを待っています。
明日も、明後日も、1年後も、10年後でも。
私に名前を付けて下さい。
あなたの名前を教えて下さい。
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0日目
「ええと…これで準備は終わりかしら?最後にここを押したらいいのね?」
「あぁそうだよ。あ、待って!大事なことを忘れてる!名前がまだだよ。何にしようか?」
「そうねぇ。ジョーイはどうかしら?楽しいのJOYと響きが似てるし。」
「いいね!ヒューイとジョーイか。よいコンビになりそうだ!」
「「ゆっくりおやすみ、ジョーイ。目覚める日まで。」」
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1日目
「ついに生まれたわ!なんて可愛いの!私たちのベイビー!ヒューイ」
「ありがとう!マイハニー!よく頑張ったね!
あぁ〜なんて素敵な日なんだ!ようこそ我が息子、
ヒューイ!」
「ねぇあなた、ジョーイはどこ?」
「あぁ、ここにいるよ。いよいよだな!」
「「3、2、1…スイッチ、オン!
ジョーイ、ハッピーバースデー!」」
『パパ、ママ、初めまして。僕はジョーイです。
これからよろしくお願いします。
ヒューイはどこですか?』
「この子がヒューイよ。あなたと同じ、今日生まれたばかりなの。よろしくね。」
「ジョーイ、ヒューイをよろしくな。」
『もちろんです。パパ、ママ。
あぁ、ヒューイ!キミはなんて小さくて愛らしいんだ!
僕はいつでもキミを見守っているからね。』
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5日目
「ふぇっふぇっ…」
『ヒューイ、目が覚めましたね。どれどれ?
熱なし、呼吸、脈拍正常。
これは、オムツとミルクですね。直ぐに誰かを呼んできます。良い子で待っていて下さいね。』
「あら、ジョーイ。ヒューイが起きたのね?
教えてくれてありがとう。ちょっと待っててね。
今ちょっと手が離せなくて。」
「ん?あぁ、ヒューイが起きたのか。大丈夫!僕が行くよ。」
『パパ、ヒューイはオムツの交換とミルクを欲しています。液体ミルクはもう、適温に温めてあります。』
「了解!ジョーイ、ありがとう。助かるよ。」
『ヒューイと家族のためですから!パパ、お気になさらず。』
「ははっ!そうか、そうだな。でもジョーイも家族だぞ?
さぁ、一緒にヒューイのピンチを助けに行こう!」
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30日目
「へっ、へっ、へっ、へぇぇぇん」
『ヒューイ?ふむ、これは…呼吸、脈拍は正常。
あぁ、少し熱がこもっていますか。暑かったのですね。
今、空調を調整しますね。
お腹はまだすいていないかな?では、オムツを替えて、汗を拭きましょう。きっとサッパリしますよ』
「どうしたの?ジョーイ。うんうん、わかったわ。
直ぐ行きましょうね。」
『ママ、おしぼりとオムツをどうぞ。もし必要なら、
ヒューイへ湯冷ましの用意も出来ますよ。』
「まぁジョーイ、ありがとう!気が利くわね。
少し湯冷ましをもらえる?」
『はい、ママ。ヒューイの着替えが終わったら、お渡ししますね。』
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90日目
『よーしよし。ヒューイ、随分しっかりしてきましたね。首も座って、やっと僕にも抱っこの許可がおりましたよ。これからはミルクもあげられますよ!嬉しいなぁ。
オムツや着衣の交換は、デリケートな作業なので、できません。残念です。
起きている時間も増えましたね。あぁ、なんて優しい笑顔なんだ!君と過ごせて幸せですよ。』
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180日目
『ヒューイ、最近はミルクだけでなく、離乳食も上手に食べていますね。スクスクと健やかに成長していて、僕は嬉しいですよ!
でも、寝返りしながら移動していくのは、心配です。
もちろん僕は片時も目を離さないつもりですが。
くるんと転がって、ニコーっと笑うそのお顔。まるで天使のようですね。』
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1年後
「「ハッピーバースデー!ヒューイ、ジョーイ!」」
「あっという間に1年ね。二人共もう1歳なのね。ヒューイはどんどん動きが活発になって…我が家はジョーイのおかげで安心して子育て出来てるわ。ありがとうね。」
「んまーま、あぅー!ぱっぱっぱ!」
「あはは、パパを呼んでるのかい?ヒューイは最近よくお喋りするようになったなぁ。」
『ヒューイは時々、パパとママに話しかけていますよ。
まだ発音はつたないですが、ちゃんと意味を持って話しています。残念ながら、僕はまだジョーイとは呼ばれていませんが…』
「え?この前、じーって言ってた気がするけど?
ねぇヒューイ、じーは?」
「んー?じー!じー!」
「ほらね?ジョーイを呼んでるわ。ジョーイを見て、こんなにニコニコしてるし!」
『あ、あぁ…たしかに!ヒューイ!!!じーですよ!
ここにいますよ!ありがとう!僕は世界一幸せだ!』
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3年後
「ジョーイ、あそぼー?」
「ジョーイ、どこー?」
「ジョーイ、しゅきー」
『ヒューイ、僕も大好きですよ。さぁ、今日は何をしますか?大好きな積み木遊びにしますか?
ヒューイのお気に入りの電車もありますよ?
あぁ、可愛いくて賢いヒューイ。僕の家族、僕の兄弟。
いつまでもこうしていれたらいいのに。』
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5年後
「ジョーイ、ただいまー!今日ね、幼稚園でね、お絵描きをしたよ。これ見て!」
『やぁ、おかえりヒューイ!どれどれ?わぁ!これはまた…すごく上手に描けてますね。
パパとママと君と僕だね。なんて素敵な絵なんだ!
この絵は壁に飾っておくかい?』
「僕のお部屋じゃなくて〜リビングに貼りたいなぁ!
家族の絵だからーー!」
『いいですね!そうしましょう。
さぁ行きましょう。おやつのプリンがありますよ…』
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7年後
「「ハッピーバースデーヒューイ!!」」
「今日はヒューイのお誕生日パーティに来てくれてありがとう!お菓子も飲み物も沢山用意してあるわよ〜」
「ママ、ジョーイは?どこにいるの??」
「ジョーイは、今日はメンテナンスなんですって。
夜には戻るわ。ヒューイ?今日はあなたのバースデーパーティなのよ?もっと楽しんで!」
「今日は、僕とジョーイのバースデーなのに…」
『ヒューイ…お誕生日おめでとう。
今頃君は、友人たちと楽しく過ごしているだろうか?
僕は今、新たな学習プログラムをインストールしているよ。これで、君の勉強をみてあげられるからね。
沢山の知識。これが僕から君へのプレゼントだ。
ヒューイ、大きくなったね。
僕は嬉しいよ。』
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10年後
「出かけてくる。ママが帰って来る前には戻るから。」
『ヒューイ、宿題は?まだだろう?』
「友達と遊ぶ約束をしてるんだ。帰ったらやる。」
『ヒューイ、友達の名前は?お腹は空いてないかい?
おやつを食べてから行けば…』
「ジョーイ!!!友達が待ってるんだ!
僕がどこにいても、GPSでわかるでしょ?いちいち聞かないでくれる?」
『ヒューイ…』
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15年後
「ジョーイ、どこにいるの?
ジョーーーイ!またヒューイの部屋かしら?」
『ママ、僕はリビングに居ます。おかえりなさい。
何かお手伝いしますか?』
「ジョーイ、あなたどうしたの?元気がないみたい。
またヒューイが何か言ったの?」
『ママ、ヒューイは悪くありません。思春期の男の子ですから、僕に色々言われるのが嫌なのでしょう。
ただ、GPSでの探索は、今後一切するなと言っていました。パパにお願いしてGPS機能を外すことはできますか?』
「ん…仕方ないわね。パパに相談してみましょうか?
ジョーイ、あなたはよくやってくれてるわ。
あなたは私達の家族よ?忘れないでね。」
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18年後
「忘れ物はないか?手荷物はこれだけか?」
「あぁ、ヒューイ!一人で大丈夫??体に気をつけてね。ちゃんとご飯を食べるのよ?着いたら連絡しなさいね。」
「父さん、荷物はそれだけだよ。あとはもう送ったから。
母さん、大丈夫だって!俺、もう18だぜ?
休暇には戻るから。心配しないで。
二人ともさ、スマホもあるし、連絡は取り合えるんだから、大袈裟だよ?
あ、それと、ジョーイ…色々ごめん。
俺たちは家族だから。父さんと母さんを頼むよ。」
『ヒューイ、有意義な学生生活であるよう、祈っていますよ。パパとママは任せてください。僕が出来うる限りの全てでお守りしますから。
行ってらっしゃい。大切なヒューイ。』
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20数年後
ルルルルル、ルルルルル…
『もしもし?』
「ジョーイか?俺だ!ヒューイだ!!
頼む!大至急、父さんと母さんを町から逃がしてくれ!!
この国は、恐らく数日中に戦争に巻き込まれる。
その町には、軍の基地と軍事工場があるだろう?
真っ先に狙われる。危ないんだ!
だからお願い!二人を遠くに逃がして!!!」
『ヒューイ!落ち着いて!そのような兆候も報道も一切無いけれど、君がそこまで言うのなら、僕は信じるよ。
パパとママは全力で逃がす。二人はどこに向かわせればいい?地図データを僕に送って!
それと、町の人はどうする?伝えた方がいいのだろうか?』
「それは…ダメだ。この情報はトップシークレットだ。
僕は…今、情報を扱う仕事をしていて、本当は、ここで知り得た情報を外に漏らしてはいけないんだ!
でも、家族が!!!
地図データはジョーイ、君に送る。そこに二人を向かわせてくれ。
僕らもこれから向かう。」
『僕ら?ひとりじゃなくて?』
「彼女が一緒だ…まだ家族に紹介してなかったけど、婚約した。彼女のお腹には僕らの子供がいるんだ。」
『あぁ、ヒューイ!彼女は動いて大丈夫なのかい?
無理はさせないように。大事な体だ。
この事は、全部パパとママに話していいのか?
それとも自分で話すか?』
「僕も移動中だ。そうそう連絡は出来ない。だから、二人には会ってから詳しく話すけど、先ず、ジョーイから伝えてもらえるか?」
『わかった。電話の内容は録音してあるから、これを聞かせる…で、いいだろうか?』
「ジョーイ!ジョーイ!!ありがとう!!!
子供が産まれたら、今度は僕の子のお世話を頼めるか?
ジョーイ、君は家族で僕らは兄弟だ!
父さん母さん、僕と彼女と子供と君。
みんなで暮らそう!
生まれてくる子供は男の子だ。僕らが遊んだあの積み木、まだあったよな?あれで、遊んでやって欲しい。」
『お安い御用だ!ヒューイはあの積み木が大のお気に入りだったから、きっと坊やも気に入るだろう。
ヒューイおめでとう。
今から、坊やに会える日が楽しみだ!』
「ああ。じゃあ、ジョーイ、地図の場所で!」
『ヒューイ、気をつけて。』
「まさか、本当にそんなことが起こるのか??
情報って何だ?ヒューイが間違っているんじゃないのか???」
「あぁ、神様!戦争なんて…!」
『パパ、ママ。ヒューイが嘘をつくとは思えません。
嘘をつくメリットもありません。
2人も聞いたでしょう?あの声が嘘をついてると思いますか?僕はヒューイを信じます。』
「それもそうだが…」
『信じて下さい!パパ!ママ!もし、万が一違ったら、家族旅行をした、とでも思えばよいのです。
ヒューイと婚約者とお腹のベビーと。きっと幸せな旅になりますよ。』
「うん…そうだな。ジョーイの言う通りだ。それで合流地点はどこなんだ?」
『ここから、直線で約500kmは離れていますね。
ヒューイの指示によると、危険な場所を回避しながら向かうように…との事です。
所々に安全地帯的な町もありそうです。でもこのルートだと、ざっと見たところ、走行距離は700km以上になると思います。ちなみに高速道路は使いません。
あと、注意書きとして、スマホやナビは使えなくなる可能性があるそうです。
パパ、ママ、手分けして準備をしましょう。』
「わかった。息子たちを信じよう。私は会社を見てくるよ。しばらく休業だな。車は会社のワンボックスの方が移動に都合がいいだろうから、持ってくるよ。
それと…現金が必要かもしれないな。用意しないと。
ジョーイ、ママが心配だ。傍にいてやってくれるか?」
『もちろんです。ママは僕がお守りします。』
「あなた、ジョーイ、大丈夫よ。急な話でびっくりしたし、正直まだ怖いわ。
でも、ヒューイと彼女に会いにいくのよね?
私、おばあちゃんになるのよね?
震えていられないわ。ジョーイ、手伝ってくれる?
パントリーから持ち出せるものを準備しましょう。」
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数時間後
「とりあえず準備は出来たな。明け方になったら出発しよう。」
「本当に、本当に、戦争が起こるの?
ここが狙われるの?
午前中まで一緒に働いていた人達は皆、巻き込まれてしまうの?」
『ママ、お気持ちはわかりますが…』
「ジョーイに私の気持ちがわかるの?!あなたは…」
「やめないか!ジョーイを責めてどうする?
ジョーイが悪いことをしたのか?
ママ、頼むから冷静になってくれ。
ヒューイの情報が、間違いであって欲しいと、私もジョーイもママ思っている、みんなそうだよな。
でも、息子を信じると決めただろう?」
「あ、あぁっ!ごめんなさいっ!ジョーイ!
私ってば、なんてことを言おうとしたの?!
ごめんね…ごめんなさいジョーイ。」
『ママ、ママ…僕は何も聞いていません。
だからお願い!泣かないで!』
「ジョーイ、出発まで部屋で準備をしておいで。
ママは大丈夫だ。パパがいるからな!
ジョーイの大切なものを、忘れないよう、荷物に入れておくんだよ。あと数時間で出発だからね。」
『はい。パパ』
僕の大事なものは…
僕は時間ギリギリまで作業に追われた。
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明け方
「ジョーイ…さっきは取り乱してしまって、ごめんなさい。もう準備は出来た?」
『はい、ママ。』
「この家も色々あったわねぇ…
ほら見て。これ、ジョーイとヒューイが戦いごっこでドアにつけた傷!懐かしいわね。」
『ママ、あの時はごめんなさい。僕たちがつけた傷なのに、知らないなんて嘘ついて…』
「ふふっ。そうだったわね。でもあのあと、ヒューイが泣きながら謝ってきたじゃない?そうしたら、ジョーイまで本当は僕がやりましたーって。
ヒューイを庇ってくれたのよね。ありがとう。
さて、行きましょうか。
思い出は心にしっかりしまったわ。大丈夫、大丈夫!」
「ふぅ、隣町の外れまできたな。ここの24時間スーパーで飲み物と食べ物を調達してくるから、ママとジョーイは待っててくれ。最初の安全地帯までまだ少し掛かるからな。」
「ええ、わかったわ。あなた、気をつけて。」
『ママ…』
「ん?どうしたの?あら、ジョーイ。これ、充電がまだ半分じゃない?さっき、家でしておかなかったの?
ちゃんといつもMAXにしておいてね?心配だから。
今から充電しましょう。車でもできるから大丈夫よ。」
『うん、ママ、あの…ごめんなさい!僕、大事なものを家に置き忘れてしまいました。』
「え?何を忘れてきたの?」
『充電パーツ…』
「ええっ??そんなに大事なものを置いてきちゃったの??あらやだ。どうしよう!取りに帰らなきゃ!!
最後に積み込んだ荷物には、入ってない?」
『うん…ごめんなさい。』
「戻ったよ。今ヒューイから電話があって、とにかく最初の安全地帯まででもいいから、急げって…」
「あなた!それどころじゃないの!ジョーイが充電パーツを置いてきちゃったって!!!戻って!今すぐ!」
「え???そりゃ、一大事だ!!直ぐに戻ろう!
あぁ、ジョーイ、悪かったな。ゴタゴタしてて、ちゃんと出発前に確認すべきだった。」
『パパ!ダメ!パパ!!戻っちゃダメです!!
ヒューイから連絡があったのでしょう?パパとママは最初の安全地帯まで先に行って!
今から家に戻ったら、夜も明けて人目につきます。
それにもし、知り合いにでも会ったら?
せっかく決心したのに、心も揺れるでしょう?
僕は車ほどじゃないけど、人の何倍も早く動けます。
それに、僕は車の運転も出来ますよ?パパがそう設計してくれたから。
僕は人の少年に見えるでしょう?ママがそうデザインしてくれたから。
だから、大丈夫です。僕はパーツを回収したら直ぐに、
パパの車で最初の安全地帯へ行きます。そこで合流しましょう。』
「いや、ジョーイ。それは親として容認出来ないよ。
我が子を置いて行くなんて!」
『パパ!ママ!ヒューイの気持ちも考えて!
ここで引き返して、もし2人に何かあったら…
僕はヒューイに顔向け出来ません。
パパ、僕は生まれてからずっと優秀だったでしょう?
ママはいつも僕を褒めてくれたでしょう?
僕はパパとママが生み出してくれた、カスタムメイド型子育てロボットの1号機だよ!僕を信じて、先に安全地帯に行って!お願いだから!!』
「ジョーイ!!!あなたはなんて子なの…!」
「ジョーイ、お前の言葉を信じていいんだな?」
『パパ、ママ、今すぐ、安全地帯に向かって。
僕は薄暗いこの時間なら、あっという間に家に戻れるよ。最短距離で移動出来るし!
車の運転はね、ヒューイと2人、夜中にこっそり抜け出して、ドライブしてたから慣れてるよ!心配しないで。』
「ええっ?そんなこと知らないぞ?全く、なんて兄弟なんだ…」
「やたらにクレカ払いのガソリン代が多かった時期があったけど、あなた達のせいだったのね…」
『僕だって、パパとママに秘密はあるんですよ。
パパ、ママ、今すぐに出発して。地図は印刷してファイルにしたのを置いてあるから、迷わず、振り向かずに行って。
僕も行くよ…パパ、ママ、愛している!!!』
僕は走り出した。振り返らずに。
もう、あまり時間はない、そんな気がした。
愛する両親に、少しでも遠くへ逃げて欲しかった。
僕らの家が見えてきた。
これから僕は、この街のネット環境に忍び込んで、駅とモールの電光掲示板、町中のスピーカーをジャックする。
『巨大地震警報!!!この地域を震源とする未曾有の大地震が予知されました。今すぐ町から南部方面に退避すること!繰り返す…』
スピーカーからも繰り返しガンガン流す。
これ、ヒューイには、僕の仕業だって直ぐにバレるでしょうね。でも、まぁ、それも致し方ないですね。
1人でも2人でも多く、町の人に逃げ延びて欲しい。
ママの泣く顔が忘れらないから。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
数時間後
念の為に町をパトロールするが、どうやら人の気配は感じられない。
これで数日は時間稼ぎが出来たかな。
僕も家族の元に急がないと…!
その刹那、空が一瞬光った気がした。
そして次の瞬間、体が動かせなくなり…
『電磁パルスか…?』
ヒューイは、スマホやナビが使えなくなるかも?と言っていた。
これか…いよいよ来たのか。
僕の機能が失われてい…く…
地面に倒れた瞬間、今まで聞いた事がない風きり音が聞こえて…
町が…消えた。
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?日目
…ここはどこなのか?
自分は…何者なのか?
いつからここにいて、いつまでここにいるのか。
意識だけの混沌とした世界。
行かなきゃ…どこに?
………イ?
わからない…わか…
「…いた!見つけた!!!父さん、母さん、リリアっ!!!いた!ジョーイがいた!!!」
「ああっ!ジョーイ!ジョーイ!!こんなに傷ついて…
ママよ!遅くなってごめんね??
ねえ、あなた、ジョーイは元に戻る?」
「さっき会社から、部品や材料の在庫はかき集めたけど、損傷がどのくらいか。みてないとわからない…
ジョーイはどうやらリセットされたみたいだ。
形は戻せても、記憶はどこまで取り戻せるか。
あぁ!ジョーイ!我が息子!こんな姿になって…
でも、でも、見つかって良かった!!!」
「ジョーイが1人で戻ったって聞いて、嫌な予感がしたんだ…でも、ジョーイは町を救いにきたんだね。
ジョーイ、聞いて?君のおかげで、町の人は助かったよ?
今度はジョーイが目を覚まさなきゃ!」
「ヒューイ。ジョーイを連れ帰って、詳しく見てみよう。運ぶのを手伝ってくれ。
ママ、君は、ジョーイの目が近くにあるか少し探してもらえるかい?リリアは一旦車に戻ろう。体に障るといけないから。」
「ジョーイ、あなたの目には大事な記憶のデータが入っているのよ…あの夜あなたは、自分のバックアップデータをクラウドに送らなかった。その代わり家族の写真やビデオを送って残してくれたのね?
あなたが車に置いていった荷物の中には、きれいに整理・分別された沢山のUSBと、家に忘れたはずの充電パーツ、それと懐かしい積み木が入っていたわね。
あの積み木で、ヒューイとリリアのベビーと遊ぶのでしょう?
大切なジョーイの目は、ママが必ず見つけるから。
また、私をママって呼んでよ…」
「よし、ジョーイ、お前の目を探してくるよ!
リリアはジョーイと留守番な?リリア、体調は大丈夫?
ベビーの調子は?」
「心配しなくても大丈夫よ。とっても順調!
…この人がジョーイさんなのね。ヒューイがいつもジョーイさんの話しをするから、ブラコンめ!って、からかわれていたよね。
あなたの家族に、ちゃんとご挨拶したいわ。
ベビーにも会って欲しいし。
目、絶対に見つけてきて!!」
今はまだ戦時下だけど、この戦争は長く続くことなく終結を迎えそう。
この国の2箇所の軍事拠点が、ある日突然攻撃されて始まった戦争。その攻撃を受けた拠点のひとつがこの町。
ただ、攻撃時に、何故か町民は既に避難していて、人的被害はなかったのよ。
軍事関連施設の建物は全滅だったけど、民間では町全体の1/4くらいが被害にあったの。
残念ながらヒューイの実家は火事で全焼したわ。
ヒューイと私とベイビーは、ヒューイの両親と共に避難中だけど、戦争が終わったら全員で戻ってくるつもり。
どうせなら三世代が気持ちよく過ごせる家を建てよう!なんて、みんな張り切っちゃってるのよ。
その家には、ジョーイ、あなたが居ないと!
グルングルン…
「うわぁ!!今日はちょっと元気すぎじゃない?
おチビちゃん。
あなたも嬉しいの?ジョーイおじさんに会えて。
今、あなたの家族が力を合わせてジョーイおじさんの大事なものを探しているの。
見える?ふふっ。まだ、見えないか〜!
じゃあママが、あなたの代わりにここで応援するね?
…少し日が傾いてきたね。今日はもうそろそろ…
ん?あ、あれ…?まさか??
ヒューイーーーー!ヒューイ!ちょっと!!!!
こっちにきてーーーーー!」
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
夕焼けの時間
「リリア!どうしたの??大丈夫??」
「ヒューイ、見て!あそこに乗り捨ててあるクルマの前輪のとこ。ほら、何か光ってない??」
「あ、あぁ、何か夕日を反射して光ってるね。
え?あ!もしかして???見てくる!!!」
「おチビちゃん、あなたお手柄だったかもよ?ジョーイおじさんの目、見つかったみたい!」
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2ヶ月後
「ええと…これで準備完了よね?それで、最後にここを押す…だったかしら?
ん〜もう!最近、細かい字が見えにくいのよ〜」
「大丈夫、合ってるよ。それにメガネの君もチャーミングだから安心して。
あ、待って!最後に名前を入力するんだ。名前、どうする?」
「「「ジョーイ!!!」」」
「いや、父さん、それ以外ある??聞くまでもないよ。」
「そうだけど、今度のオーナーはヒューイとリリアだ。ジョーイは記憶の殆どは修復出来たけど、完璧ではないから、新たにカイルの兄弟としてスタートしてもよい。
二人に任せるよ。」
「だったらなおさら、ジョーイでいいわよね?
一緒にいるうちに色々学習していくのでしょう?ちょっぴり物忘れするかも〜なんて、人でもしょっちゅうだわ!」
「リリアの言う通りだな。ジョーイは僕の兄弟だ。
もうすぐ生まれる息子のカイルのことも、よろしく頼むな。」
「「ゆっくりおやすみ、ジョーイ。目覚める日まで。」」