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ジョーイ

僕の名は『ジョーイ』。

僕にはパパとママ、それから、同じ日に生まれた兄弟・ヒューイがいる。

これは、僕と大切な家族の物語。


会話と静かな描写で綴る、親子と兄弟の小さなおはなしです。


※セリフ形式ではなく、地の文で展開されます。

私はあなたを待っています。

明日も、明後日も、1年後も、10年後でも。


私に名前を付けて下さい。

あなたの名前を教えて下さい。


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

0日目


「ええと…これで準備は終わりかしら?最後にここを押したらいいのね?」

「あぁそうだよ。あ、待って!大事なことを忘れてる!名前がまだだよ。何にしようか?」


「そうねぇ。ジョーイはどうかしら?楽しいのJOYと響きが似てるし。」

「いいね!ヒューイとジョーイか。よいコンビになりそうだ!」


「「ゆっくりおやすみ、ジョーイ。目覚める日まで。」」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

1日目


「ついに生まれたわ!なんて可愛いの!私たちのベイビー!ヒューイ」

「ありがとう!マイハニー!よく頑張ったね!

あぁ〜なんて素敵な日なんだ!ようこそ我が息子、

ヒューイ!」


「ねぇあなた、ジョーイはどこ?」

「あぁ、ここにいるよ。いよいよだな!」


「「3、2、1…スイッチ、オン!

ジョーイ、ハッピーバースデー!」」


『パパ、ママ、初めまして。僕はジョーイです。

これからよろしくお願いします。

ヒューイはどこですか?』


「この子がヒューイよ。あなたと同じ、今日生まれたばかりなの。よろしくね。」

「ジョーイ、ヒューイをよろしくな。」


『もちろんです。パパ、ママ。

あぁ、ヒューイ!キミはなんて小さくて愛らしいんだ!

僕はいつでもキミを見守っているからね。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

5日目


「ふぇっふぇっ…」

『ヒューイ、目が覚めましたね。どれどれ?

熱なし、呼吸、脈拍正常。

これは、オムツとミルクですね。直ぐに誰かを呼んできます。良い子で待っていて下さいね。』


「あら、ジョーイ。ヒューイが起きたのね?

教えてくれてありがとう。ちょっと待っててね。

今ちょっと手が離せなくて。」

「ん?あぁ、ヒューイが起きたのか。大丈夫!僕が行くよ。」


『パパ、ヒューイはオムツの交換とミルクを欲しています。液体ミルクはもう、適温に温めてあります。』

「了解!ジョーイ、ありがとう。助かるよ。」


『ヒューイと家族のためですから!パパ、お気になさらず。』

「ははっ!そうか、そうだな。でもジョーイも家族だぞ?

さぁ、一緒にヒューイのピンチを助けに行こう!」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

30日目


「へっ、へっ、へっ、へぇぇぇん」

『ヒューイ?ふむ、これは…呼吸、脈拍は正常。

あぁ、少し熱がこもっていますか。暑かったのですね。

今、空調を調整しますね。

お腹はまだすいていないかな?では、オムツを替えて、汗を拭きましょう。きっとサッパリしますよ』


「どうしたの?ジョーイ。うんうん、わかったわ。

直ぐ行きましょうね。」

『ママ、おしぼりとオムツをどうぞ。もし必要なら、

ヒューイへ湯冷ましの用意も出来ますよ。』

「まぁジョーイ、ありがとう!気が利くわね。

少し湯冷ましをもらえる?」

『はい、ママ。ヒューイの着替えが終わったら、お渡ししますね。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

90日目


『よーしよし。ヒューイ、随分しっかりしてきましたね。首も座って、やっと僕にも抱っこの許可がおりましたよ。これからはミルクもあげられますよ!嬉しいなぁ。

オムツや着衣の交換は、デリケートな作業なので、できません。残念です。

起きている時間も増えましたね。あぁ、なんて優しい笑顔なんだ!君と過ごせて幸せですよ。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

180日目


『ヒューイ、最近はミルクだけでなく、離乳食も上手に食べていますね。スクスクと健やかに成長していて、僕は嬉しいですよ!

でも、寝返りしながら移動していくのは、心配です。

もちろん僕は片時も目を離さないつもりですが。

くるんと転がって、ニコーっと笑うそのお顔。まるで天使のようですね。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

1年後


「「ハッピーバースデー!ヒューイ、ジョーイ!」」

「あっという間に1年ね。二人共もう1歳なのね。ヒューイはどんどん動きが活発になって…我が家はジョーイのおかげで安心して子育て出来てるわ。ありがとうね。」

「んまーま、あぅー!ぱっぱっぱ!」

「あはは、パパを呼んでるのかい?ヒューイは最近よくお喋りするようになったなぁ。」


『ヒューイは時々、パパとママに話しかけていますよ。

まだ発音はつたないですが、ちゃんと意味を持って話しています。残念ながら、僕はまだジョーイとは呼ばれていませんが…』

「え?この前、じーって言ってた気がするけど?

ねぇヒューイ、じーは?」


「んー?じー!じー!」

「ほらね?ジョーイを呼んでるわ。ジョーイを見て、こんなにニコニコしてるし!」


『あ、あぁ…たしかに!ヒューイ!!!じーですよ!

ここにいますよ!ありがとう!僕は世界一幸せだ!』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

3年後


「ジョーイ、あそぼー?」

「ジョーイ、どこー?」

「ジョーイ、しゅきー」

『ヒューイ、僕も大好きですよ。さぁ、今日は何をしますか?大好きな積み木遊びにしますか?

ヒューイのお気に入りの電車もありますよ?

あぁ、可愛いくて賢いヒューイ。僕の家族、僕の兄弟。

いつまでもこうしていれたらいいのに。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

5年後


「ジョーイ、ただいまー!今日ね、幼稚園でね、お絵描きをしたよ。これ見て!」

『やぁ、おかえりヒューイ!どれどれ?わぁ!これはまた…すごく上手に描けてますね。

パパとママと君と僕だね。なんて素敵な絵なんだ!

この絵は壁に飾っておくかい?』


「僕のお部屋じゃなくて〜リビングに貼りたいなぁ!

家族の絵だからーー!」

『いいですね!そうしましょう。

さぁ行きましょう。おやつのプリンがありますよ…』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

7年後


「「ハッピーバースデーヒューイ!!」」

「今日はヒューイのお誕生日パーティに来てくれてありがとう!お菓子も飲み物も沢山用意してあるわよ〜」

「ママ、ジョーイは?どこにいるの??」

「ジョーイは、今日はメンテナンスなんですって。

夜には戻るわ。ヒューイ?今日はあなたのバースデーパーティなのよ?もっと楽しんで!」

「今日は、僕とジョーイのバースデーなのに…」


『ヒューイ…お誕生日おめでとう。

今頃君は、友人たちと楽しく過ごしているだろうか?

僕は今、新たな学習プログラムをインストールしているよ。これで、君の勉強をみてあげられるからね。

沢山の知識。これが僕から君へのプレゼントだ。

ヒューイ、大きくなったね。

僕は嬉しいよ。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

10年後


「出かけてくる。ママが帰って来る前には戻るから。」

『ヒューイ、宿題は?まだだろう?』

「友達と遊ぶ約束をしてるんだ。帰ったらやる。」

『ヒューイ、友達の名前は?お腹は空いてないかい?

おやつを食べてから行けば…』


「ジョーイ!!!友達が待ってるんだ!

僕がどこにいても、GPSでわかるでしょ?いちいち聞かないでくれる?」

『ヒューイ…』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

15年後


「ジョーイ、どこにいるの?

ジョーーーイ!またヒューイの部屋かしら?」

『ママ、僕はリビングに居ます。おかえりなさい。

何かお手伝いしますか?』

「ジョーイ、あなたどうしたの?元気がないみたい。

またヒューイが何か言ったの?」


『ママ、ヒューイは悪くありません。思春期の男の子ですから、僕に色々言われるのが嫌なのでしょう。

ただ、GPSでの探索は、今後一切するなと言っていました。パパにお願いしてGPS機能を外すことはできますか?』

「ん…仕方ないわね。パパに相談してみましょうか?

ジョーイ、あなたはよくやってくれてるわ。

あなたは私達の家族よ?忘れないでね。」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

18年後


「忘れ物はないか?手荷物はこれだけか?」

「あぁ、ヒューイ!一人で大丈夫??体に気をつけてね。ちゃんとご飯を食べるのよ?着いたら連絡しなさいね。」

「父さん、荷物はそれだけだよ。あとはもう送ったから。

母さん、大丈夫だって!俺、もう18だぜ?

休暇には戻るから。心配しないで。

二人ともさ、スマホもあるし、連絡は取り合えるんだから、大袈裟だよ?


あ、それと、ジョーイ…色々ごめん。

俺たちは家族だから。父さんと母さんを頼むよ。」


『ヒューイ、有意義な学生生活であるよう、祈っていますよ。パパとママは任せてください。僕が出来うる限りの全てでお守りしますから。

行ってらっしゃい。大切なヒューイ。』


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

20数年後


ルルルルル、ルルルルル…


『もしもし?』

「ジョーイか?俺だ!ヒューイだ!!

頼む!大至急、父さんと母さんを町から逃がしてくれ!!

この国は、恐らく数日中に戦争に巻き込まれる。

その町には、軍の基地と軍事工場があるだろう?

真っ先に狙われる。危ないんだ!

だからお願い!二人を遠くに逃がして!!!」

『ヒューイ!落ち着いて!そのような兆候も報道も一切無いけれど、君がそこまで言うのなら、僕は信じるよ。

パパとママは全力で逃がす。二人はどこに向かわせればいい?地図データを僕に送って!

それと、町の人はどうする?伝えた方がいいのだろうか?』

「それは…ダメだ。この情報はトップシークレットだ。

僕は…今、情報を扱う仕事をしていて、本当は、ここで知り得た情報を外に漏らしてはいけないんだ!

でも、家族が!!!

地図データはジョーイ、君に送る。そこに二人を向かわせてくれ。

僕らもこれから向かう。」

『僕ら?ひとりじゃなくて?』

「彼女が一緒だ…まだ家族に紹介してなかったけど、婚約した。彼女のお腹には僕らの子供がいるんだ。」

『あぁ、ヒューイ!彼女は動いて大丈夫なのかい?

無理はさせないように。大事な体だ。

この事は、全部パパとママに話していいのか?

それとも自分で話すか?』

「僕も移動中だ。そうそう連絡は出来ない。だから、二人には会ってから詳しく話すけど、先ず、ジョーイから伝えてもらえるか?」

『わかった。電話の内容は録音してあるから、これを聞かせる…で、いいだろうか?』

「ジョーイ!ジョーイ!!ありがとう!!!

子供が産まれたら、今度は僕の子のお世話を頼めるか?

ジョーイ、君は家族で僕らは兄弟だ!

父さん母さん、僕と彼女と子供と君。

みんなで暮らそう!

生まれてくる子供は男の子だ。僕らが遊んだあの積み木、まだあったよな?あれで、遊んでやって欲しい。」

『お安い御用だ!ヒューイはあの積み木が大のお気に入りだったから、きっと坊やも気に入るだろう。

ヒューイおめでとう。

今から、坊やに会える日が楽しみだ!』

「ああ。じゃあ、ジョーイ、地図の場所で!」

『ヒューイ、気をつけて。』


「まさか、本当にそんなことが起こるのか??

情報って何だ?ヒューイが間違っているんじゃないのか???」

「あぁ、神様!戦争なんて…!」

『パパ、ママ。ヒューイが嘘をつくとは思えません。

嘘をつくメリットもありません。

2人も聞いたでしょう?あの声が嘘をついてると思いますか?僕はヒューイを信じます。』

「それもそうだが…」

『信じて下さい!パパ!ママ!もし、万が一違ったら、家族旅行をした、とでも思えばよいのです。

ヒューイと婚約者とお腹のベビーと。きっと幸せな旅になりますよ。』

「うん…そうだな。ジョーイの言う通りだ。それで合流地点はどこなんだ?」

『ここから、直線で約500kmは離れていますね。

ヒューイの指示によると、危険な場所を回避しながら向かうように…との事です。

所々に安全地帯的な町もありそうです。でもこのルートだと、ざっと見たところ、走行距離は700km以上になると思います。ちなみに高速道路は使いません。

あと、注意書きとして、スマホやナビは使えなくなる可能性があるそうです。

パパ、ママ、手分けして準備をしましょう。』

「わかった。息子たちを信じよう。私は会社を見てくるよ。しばらく休業だな。車は会社のワンボックスの方が移動に都合がいいだろうから、持ってくるよ。

それと…現金が必要かもしれないな。用意しないと。

ジョーイ、ママが心配だ。傍にいてやってくれるか?」

『もちろんです。ママは僕がお守りします。』

「あなた、ジョーイ、大丈夫よ。急な話でびっくりしたし、正直まだ怖いわ。

でも、ヒューイと彼女に会いにいくのよね?

私、おばあちゃんになるのよね?

震えていられないわ。ジョーイ、手伝ってくれる?

パントリーから持ち出せるものを準備しましょう。」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

数時間後


「とりあえず準備は出来たな。明け方になったら出発しよう。」

「本当に、本当に、戦争が起こるの?

ここが狙われるの?

午前中まで一緒に働いていた人達は皆、巻き込まれてしまうの?」

『ママ、お気持ちはわかりますが…』

「ジョーイに私の気持ちがわかるの?!あなたは…」

「やめないか!ジョーイを責めてどうする?

ジョーイが悪いことをしたのか?

ママ、頼むから冷静になってくれ。

ヒューイの情報が、間違いであって欲しいと、私もジョーイもママ思っている、みんなそうだよな。

でも、息子を信じると決めただろう?」

「あ、あぁっ!ごめんなさいっ!ジョーイ!

私ってば、なんてことを言おうとしたの?!

ごめんね…ごめんなさいジョーイ。」

『ママ、ママ…僕は何も聞いていません。

だからお願い!泣かないで!』

「ジョーイ、出発まで部屋で準備をしておいで。

ママは大丈夫だ。パパがいるからな!

ジョーイの大切なものを、忘れないよう、荷物に入れておくんだよ。あと数時間で出発だからね。」

『はい。パパ』


僕の大事なものは…

僕は時間ギリギリまで作業に追われた。


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

明け方


「ジョーイ…さっきは取り乱してしまって、ごめんなさい。もう準備は出来た?」

『はい、ママ。』

「この家も色々あったわねぇ…

ほら見て。これ、ジョーイとヒューイが戦いごっこでドアにつけた傷!懐かしいわね。」

『ママ、あの時はごめんなさい。僕たちがつけた傷なのに、知らないなんて嘘ついて…』

「ふふっ。そうだったわね。でもあのあと、ヒューイが泣きながら謝ってきたじゃない?そうしたら、ジョーイまで本当は僕がやりましたーって。

ヒューイを庇ってくれたのよね。ありがとう。

さて、行きましょうか。

思い出は心にしっかりしまったわ。大丈夫、大丈夫!」


「ふぅ、隣町の外れまできたな。ここの24時間スーパーで飲み物と食べ物を調達してくるから、ママとジョーイは待っててくれ。最初の安全地帯までまだ少し掛かるからな。」

「ええ、わかったわ。あなた、気をつけて。」


『ママ…』

「ん?どうしたの?あら、ジョーイ。これ、充電がまだ半分じゃない?さっき、家でしておかなかったの?

ちゃんといつもMAXにしておいてね?心配だから。

今から充電しましょう。車でもできるから大丈夫よ。」

『うん、ママ、あの…ごめんなさい!僕、大事なものを家に置き忘れてしまいました。』

「え?何を忘れてきたの?」

『充電パーツ…』

「ええっ??そんなに大事なものを置いてきちゃったの??あらやだ。どうしよう!取りに帰らなきゃ!!

最後に積み込んだ荷物には、入ってない?」

『うん…ごめんなさい。』


「戻ったよ。今ヒューイから電話があって、とにかく最初の安全地帯まででもいいから、急げって…」

「あなた!それどころじゃないの!ジョーイが充電パーツを置いてきちゃったって!!!戻って!今すぐ!」

「え???そりゃ、一大事だ!!直ぐに戻ろう!

あぁ、ジョーイ、悪かったな。ゴタゴタしてて、ちゃんと出発前に確認すべきだった。」

『パパ!ダメ!パパ!!戻っちゃダメです!!

ヒューイから連絡があったのでしょう?パパとママは最初の安全地帯まで先に行って!

今から家に戻ったら、夜も明けて人目につきます。

それにもし、知り合いにでも会ったら?

せっかく決心したのに、心も揺れるでしょう?


僕は車ほどじゃないけど、人の何倍も早く動けます。

それに、僕は車の運転も出来ますよ?パパがそう設計してくれたから。

僕は人の少年に見えるでしょう?ママがそうデザインしてくれたから。

だから、大丈夫です。僕はパーツを回収したら直ぐに、

パパの車で最初の安全地帯へ行きます。そこで合流しましょう。』

「いや、ジョーイ。それは親として容認出来ないよ。

我が子を置いて行くなんて!」

『パパ!ママ!ヒューイの気持ちも考えて!

ここで引き返して、もし2人に何かあったら…

僕はヒューイに顔向け出来ません。


パパ、僕は生まれてからずっと優秀だったでしょう?

ママはいつも僕を褒めてくれたでしょう?

僕はパパとママが生み出してくれた、カスタムメイド型子育てロボットの1号機だよ!僕を信じて、先に安全地帯に行って!お願いだから!!』

「ジョーイ!!!あなたはなんて子なの…!」

「ジョーイ、お前の言葉を信じていいんだな?」

『パパ、ママ、今すぐ、安全地帯に向かって。

僕は薄暗いこの時間なら、あっという間に家に戻れるよ。最短距離で移動出来るし!

車の運転はね、ヒューイと2人、夜中にこっそり抜け出して、ドライブしてたから慣れてるよ!心配しないで。』

「ええっ?そんなこと知らないぞ?全く、なんて兄弟なんだ…」

「やたらにクレカ払いのガソリン代が多かった時期があったけど、あなた達のせいだったのね…」

『僕だって、パパとママに秘密はあるんですよ。

パパ、ママ、今すぐに出発して。地図は印刷してファイルにしたのを置いてあるから、迷わず、振り向かずに行って。

僕も行くよ…パパ、ママ、愛している!!!』


僕は走り出した。振り返らずに。

もう、あまり時間はない、そんな気がした。

愛する両親に、少しでも遠くへ逃げて欲しかった。


僕らの家が見えてきた。

これから僕は、この街のネット環境に忍び込んで、駅とモールの電光掲示板、町中のスピーカーをジャックする。


『巨大地震警報!!!この地域を震源とする未曾有の大地震が予知されました。今すぐ町から南部方面に退避すること!繰り返す…』


スピーカーからも繰り返しガンガン流す。

これ、ヒューイには、僕の仕業だって直ぐにバレるでしょうね。でも、まぁ、それも致し方ないですね。

1人でも2人でも多く、町の人に逃げ延びて欲しい。

ママの泣く顔が忘れらないから。


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

数時間後


念の為に町をパトロールするが、どうやら人の気配は感じられない。

これで数日は時間稼ぎが出来たかな。

僕も家族の元に急がないと…!


その刹那、空が一瞬光った気がした。

そして次の瞬間、体が動かせなくなり…

『電磁パルスか…?』

ヒューイは、スマホやナビが使えなくなるかも?と言っていた。


これか…いよいよ来たのか。

僕の機能が失われてい…く…

地面に倒れた瞬間、今まで聞いた事がない風きり音が聞こえて…

町が…消えた。


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

?日目


…ここはどこなのか?

自分は…何者なのか?

いつからここにいて、いつまでここにいるのか。

意識だけの混沌とした世界。

行かなきゃ…どこに?

………イ?

わからない…わか…


「…いた!見つけた!!!父さん、母さん、リリアっ!!!いた!ジョーイがいた!!!」

「ああっ!ジョーイ!ジョーイ!!こんなに傷ついて…

ママよ!遅くなってごめんね??

ねえ、あなた、ジョーイは元に戻る?」

「さっき会社から、部品や材料の在庫はかき集めたけど、損傷がどのくらいか。みてないとわからない…

ジョーイはどうやらリセットされたみたいだ。

形は戻せても、記憶はどこまで取り戻せるか。

あぁ!ジョーイ!我が息子!こんな姿になって…

でも、でも、見つかって良かった!!!」

「ジョーイが1人で戻ったって聞いて、嫌な予感がしたんだ…でも、ジョーイは町を救いにきたんだね。

ジョーイ、聞いて?君のおかげで、町の人は助かったよ?

今度はジョーイが目を覚まさなきゃ!」

「ヒューイ。ジョーイを連れ帰って、詳しく見てみよう。運ぶのを手伝ってくれ。

ママ、君は、ジョーイの目が近くにあるか少し探してもらえるかい?リリアは一旦車に戻ろう。体に障るといけないから。」


「ジョーイ、あなたの目には大事な記憶のデータが入っているのよ…あの夜あなたは、自分のバックアップデータをクラウドに送らなかった。その代わり家族の写真やビデオを送って残してくれたのね?

あなたが車に置いていった荷物の中には、きれいに整理・分別された沢山のUSBと、家に忘れたはずの充電パーツ、それと懐かしい積み木が入っていたわね。

あの積み木で、ヒューイとリリアのベビーと遊ぶのでしょう?

大切なジョーイの目は、ママが必ず見つけるから。

また、私をママって呼んでよ…」


「よし、ジョーイ、お前の目を探してくるよ!

リリアはジョーイと留守番な?リリア、体調は大丈夫?

ベビーの調子は?」

「心配しなくても大丈夫よ。とっても順調!

…この人がジョーイさんなのね。ヒューイがいつもジョーイさんの話しをするから、ブラコンめ!って、からかわれていたよね。

あなたの家族に、ちゃんとご挨拶したいわ。

ベビーにも会って欲しいし。

目、絶対に見つけてきて!!」


今はまだ戦時下だけど、この戦争は長く続くことなく終結を迎えそう。

この国の2箇所の軍事拠点が、ある日突然攻撃されて始まった戦争。その攻撃を受けた拠点のひとつがこの町。

ただ、攻撃時に、何故か町民は既に避難していて、人的被害はなかったのよ。


軍事関連施設の建物は全滅だったけど、民間では町全体の1/4くらいが被害にあったの。

残念ながらヒューイの実家は火事で全焼したわ。

ヒューイと私とベイビーは、ヒューイの両親と共に避難中だけど、戦争が終わったら全員で戻ってくるつもり。

どうせなら三世代が気持ちよく過ごせる家を建てよう!なんて、みんな張り切っちゃってるのよ。

その家には、ジョーイ、あなたが居ないと!


グルングルン…


「うわぁ!!今日はちょっと元気すぎじゃない?

おチビちゃん。

あなたも嬉しいの?ジョーイおじさんに会えて。

今、あなたの家族が力を合わせてジョーイおじさんの大事なものを探しているの。

見える?ふふっ。まだ、見えないか〜!

じゃあママが、あなたの代わりにここで応援するね?


…少し日が傾いてきたね。今日はもうそろそろ…

ん?あ、あれ…?まさか??

ヒューイーーーー!ヒューイ!ちょっと!!!!

こっちにきてーーーーー!」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

夕焼けの時間


「リリア!どうしたの??大丈夫??」

「ヒューイ、見て!あそこに乗り捨ててあるクルマの前輪のとこ。ほら、何か光ってない??」

「あ、あぁ、何か夕日を反射して光ってるね。

え?あ!もしかして???見てくる!!!」

「おチビちゃん、あなたお手柄だったかもよ?ジョーイおじさんの目、見つかったみたい!」

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

2ヶ月後


「ええと…これで準備完了よね?それで、最後にここを押す…だったかしら?

ん〜もう!最近、細かい字が見えにくいのよ〜」

「大丈夫、合ってるよ。それにメガネの君もチャーミングだから安心して。

あ、待って!最後に名前を入力するんだ。名前、どうする?」

「「「ジョーイ!!!」」」

「いや、父さん、それ以外ある??聞くまでもないよ。」

「そうだけど、今度のオーナーはヒューイとリリアだ。ジョーイは記憶の殆どは修復出来たけど、完璧ではないから、新たにカイルの兄弟としてスタートしてもよい。

二人に任せるよ。」

「だったらなおさら、ジョーイでいいわよね?

一緒にいるうちに色々学習していくのでしょう?ちょっぴり物忘れするかも〜なんて、人でもしょっちゅうだわ!」

「リリアの言う通りだな。ジョーイは僕の兄弟だ。

もうすぐ生まれる息子のカイルのことも、よろしく頼むな。」


「「ゆっくりおやすみ、ジョーイ。目覚める日まで。」」



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― 新着の感想 ―
会話だけで表現ですかー。 すごいですね! あと ちょっと泣きそうになったのは内緒です。
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