プロローグ
それは、幻想郷にとって忘れ得ぬ一日となった。世界の均衡を担う博麗神社の巫女・博麗霊夢、探求心旺盛な普通の魔法使い・霧雨魔理沙、そして白玉楼の忠実なる庭師・魂魄妖夢。幻想郷における数多の異変を解決してきたその三人が、ある朝、何の予兆もなく、まるで神隠しにでもあったかのように同時に姿を消したのだ。それぞれの拠点には、争った形跡も、書き置き一つ残されていなかった。当初はいつもの気まぐれかと思われた失踪も、丸一日経っても音沙汰がないことから、ただ事ではない雰囲気が関係者たちの間に広がり始める。彼女たちが別次元、あるいは全く異なる理の世界へと強制的に転移させられたのではないか――その不吉な推測は、直後に幻想郷を襲った未曾有の災厄によって、否定し難い現実味を帯びていくことになる。
三人の消失がまるで合図であったかのように、幻想郷の各地で奇妙で、そして凶悪な存在が目撃されるようになった。夜の帳が下りると、土の下から、あるいは打ち捨てられた古寺から、虚ろな眼窩を持つゾンビや、カタカタと骨を鳴らすスケルトンといった、紛れもないアンデッドの群れが現れ、無差別に生者を襲い始めた。昼間であっても油断はできない。深い森や竹林からは、大人の背丈ほどもある巨大な人喰い蜘蛛が巣を張り巡らせ、迷い込んだ者を捕食せんと待ち構えている。さらに、山道や人里離れた場所では、錆びた金属鎧を身に着け、殺傷能力の高いクロスボウを携えた「略奪者」と呼ばれる集団が出没し、食料や金品を求めて容赦ない襲撃を繰り返した。それだけではない。召喚術を用いて異形の使い魔を呼び出す者、幻術で旅人を惑わし危険な場所へと誘い込む者――これまで幻想郷に存在しなかったような、不可解で悪意に満ちた術を操る者たちの出現報告も、日増しに増加していったのだ。これらは、幻想郷がこれまで経験してきた「異変」とは明らかに質が異なっていた。秩序も、ルールも、まるで通用しない、剥き出しの暴力と恐怖が世界を覆い始めたのである。
この絶望的な状況下で、最も直接的な脅威に晒されたのは、特別な力を持たない人間が多く暮らす人里だった。守護者たる霊夢たちが不在の中、里の人々は文字通りなすすべもなく怯えるしかなかった。そんな折、どこからともなく一人の人物が人里に現れる。質素なローブを纏い、自らを「クリエイター」とだけ名乗るその者は、周囲の石や木々を使い、驚くべき速さで石の剣や粗末な木の弓といった、原始的ではあるが確かな武器を作り出し始めたのだ。対価を求めるでもなく、ただ黙々と製作を続け、希望する者にそれらを分け与えるその姿は、当初こそ訝しがられたものの、日に日に増していく脅威の前では、唯一の希望となっていった。かつては霊夢たちの活躍を遠巻きに眺め、あるいは巻き込まれながらも、最終的には守られる存在であった里人たち。しかし今や、彼らはクリエイターから与えられた、心許ないながらも貴重な武器を手に、自ら武器を取り、震える足で怪物の群れに立ち向かわなければならなくなっていた。見様見真似の剣術、覚束ない弓の扱い。それでも、生き残るために戦うことが、新たな、そして過酷な「日常」として根付き始めていた。
異変の元凶が何なのか、消えた霊夢、魔理沙、妖夢はどこで何をしているのか、そして謎めいた「クリエイター」の真の目的は何なのか。何一つ解明されないまま、幻想郷、特に人里は、かつてない苦闘の渦中にあった。空には不穏な暗雲が垂れ込め、人々の顔からは笑顔が消え、ただひたすらに、明日の生存だけを願う日々が続いていた。
暗黒竜と三人の勇者たちと関係ある話です。
霊夢たちがマイクラの世界に行った時に起きた異変です。