再会
「すごい、キレイ……」
チャームの作成にあたりルイーゼ様の紹介で商人の方々がお城に来てくださった。
ルイーゼ様の立ち会いのもと石選びや加工の話は進んでいき、自分でも納得ができる注文になったと思う。完成品はお店で直接受けとる事にした。
お城で色々やっているとルシウス様に感づかれてしまうかもしれない。サプライズとまではいかなくても、少し驚く表情も見てみたいと思うのが正直なところだ。……喜んでくれるかどうかが一番気になる点ではあるけれど。
「ちょうど最高品質のものが手に入りまして、そちらを使用致しました」
シワが刻まれた店主の目元がくしゃっと優しい弧を描く。
「ええ、とても素敵です。ありがとう存じます。フラン様、これ見て下さい」
「とてもキレイですね。アリシア嬢の瞳の色だ」
ここ最近はずっとフラン様が護衛だ。
彼からするとルシウス様と私は想い合っている恋人なので、チャームのプレゼントの事を話したら目を輝かせていた。
どうやら騎士団内で私たちの話しは度々上がるらしい。ご令嬢達からの誘いを尽く断り続けていた副団長に恋人が出来た、と。
護衛をフラン様に任せてからルシウス様が少し不機嫌な時があると噂されているとの話を聞くも、それは単に忙しくて疲れているせいだろうと思ってしまうそのあたりは、恋人である私だからわかる事だろう。
「私が若い頃にはチャームを送るという風習はまだ結構残ってたのですが、最近は減ってきているからね。そこの騎士の方はこんな可愛い女性から貰えるなんて幸せですね」
「……え、俺ですか?」
「ああ、恋人なんだろう?」
「いえ!!! 俺ではないです! こんなこと知られたら副団長に殺られます……」
全力で否定し、なんだったら怯えているようにも見えるのが少し面白い。そんな事でルシウス様が怒ったりするわけないのに。
「おや、そうだったか。すまんすまん」
彼の反応が面白かったのか店主は、はっはっは、と笑いながら謝罪をいれてくれた。
「素敵なチャームを本当にありがとう存じます」
「おっと、ああ、これはいけない私としたことが。お待ち下さい。刻印は如何しますか?」
「刻印、ですか?」
「ええ、私の若い頃にはチャームに刻印を入れるのが主流でしてね。言葉や日付、マーク……人によって内容は違ったのですが恋人への贈り物や、想いを伝えるアイテムとしてチャームへの刻印は人気だったんですよ」
「そうなんですね」
想いを伝える為の刻印。私の気持ちを伝えて迷惑にならないのだろうか。この関係性が終わってしまうのではないだろうか。そんな事ばかりがぐるぐると頭を巡る。
そもそも利害一致の仮初めの関係。公には恋人の二人。どんな言葉を刻印しようとも関係としては当然だし、受け取った当人も事情を理解しているので義務的な何かとして感じるのかもしれない。
義務で贈られたものだと思われるのは悲しい、でも想いを伝えてこの関係が崩れてしまうのは嫌だ。堂々巡りで進まない思考に終止符を打ったのはフラン様だった。
「そんなに悩まなくても、アリシア嬢が送るものだったら副団長は全部喜びますよ」
ふと浮かんだルシウス様の優しい笑顔に、ちゃんと伝えよう、そう思えた。
店主に刻印の言葉を伝えると先程よりも目元を綻ばせて返事をしてくれた。少し時間が掛かるのかと思いきや、別の部屋でお茶をいただいている間に完成したようだ。部屋に入ってきた店主が白くて小さな箱を差し出した。光沢のある緑色のリボンを巻いて飾ってある。まるでルシウス様の瞳の色のようだ。
「ありがとう存じます」
「恋人に想いが伝わるといいですね」
暖かくなる心のままにカーテシーを。お礼を伝えお店をあとにした。
そのまま来た道を戻る。相変わらずの賑わいを見せる街中は笑顔に溢れていた。
先ほど購入したドックタグのチャームはフラン様が持ってくださっている。このまま騎士寮に帰って渡せるのはいつになるだろうか。今日の夜? それとも日を改めて?
副団長であるルシウス様の多忙さは他の騎士様を見ていてもすぐに分かる。夜に少しだけ時間をもらうのも申し訳なく思えるくらいだ。正直なところ会いたいし話したい、でもそれが叶わなくても贈り物を渡す一瞬でいいから時間をもらいたい。
400年前はゆくゆくはお義父様達が決めた相手と添い遂げるのだと思っていたし、想う人も居なかったのでその事について考えることもなかった。この時代でルシウス様と出会って人を好きになるという感情を知って、この感情をどうやって処理すべきか自分のことなのに手に負えない。こんなにも優しく暖かく、それであってままならないものがあるなんて知らなかった。
広場に出た。
人の多さもあるのだけれど少し先の方がガヤついている。人混みの隙間に見えるのは見慣れた騎士服を着た集団だ。街の警備にしては少し人数が多いような気もする。何か事件でもあったのだろうか。そんな事を考えていると同じく気づいたフラン様がポツリと声を漏らした。
「っかしいなぁ。今日の警備は別の班だったと思うけど……」
「何か事件があったのでしょうか」
「んー、街のちょっとした事件で出る人数ではない気がしますが……」
フラン様が遠くに見える騎士団を確認しようと数歩進んで、体の向きをあちこち変え覗き込むように動いている。
「あ! 副団長いますよ!」
ルシウス様もいる? 隣国関係で動いている彼が街にいるなんてただ事ではない。何か起きているのだろうか。胸がざわつく。
フラン様が遠くに見える騎士団に気を取られていた時だった。
「アリシア嬢」
喧騒の中背後から不意に掛けられた声に振り向く。
そこに立っていたのはウェーブがかった茶色の髪の毛と薄い水色の瞳をした男性。どこかで見たことがある。……そう、確かこの時代に来たばかりの時に。
「あ……えっと……」
「リュシーです。また会いましたね」
そう、この広場で会ったのだ。あの時は確か女の子の怪我を治して、怪我を負わせた二人に少し魔法を使って。
リュシーという男性は口元だけ歪めるように笑った。その表情にゾクリと肌が粟立ち、胸がざわつく。
なんだろう、何かが引っかかる。会ったのはあの時が初めてなのに、彼の外見は割と最近に何かで話していた内容と同じだ。あれは確かルシウス様が居て、ナフタック様やジョエル様も……殿下もいた? そう、ナフタック様がこの時代に飛ばされてきたばかりの時に会議室で……――。
思い出した瞬間血の気が引いた。私は始めから出会っていたんだ、気づかずに見られてしまっていたんだ、エルダジアの魔術師に。
すぐにフラン様に伝えなければ、そう思い踵を返した瞬間腕を掴まれた。
「っ!」
「逃げないで下さいよ、アリシア嬢」
騒音の中カチリと聞こえた乾いた音。冷たい金属が手首に嵌められた。
その瞬間、体の内側から何かが抜け落ちる感覚に襲われる。魔力が――動かない。
「な、に……これ……」
「とある亡国の魔術具ですよ。貴方の力を封じる枷です」
視界の端にフラン様の背中が見える。声を出せば届く距離。
でも――。
掴まれた腕をぐっと引き寄せられ、耳元で彼が囁いた。
「さあ、一緒に来てください」
足元に淡く光る魔法陣が浮かび上がる。大きさは違うけれどこの魔法陣は知っている。転移陣だ。
そう気づいた頃には既に遅く視界が歪む。
「アリシア嬢!!」
遠くで微かにフラン様の声がした。
次の瞬間、景色は塗り替えられていた。
お読み頂きありがとうございます。
X:@sheepzzzmei




